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日本オープンゴルフ選手権 2016

松山英樹が初のゴルファー日本一に

今年のマスターズで優勝争いした男が、日本で初メジャーを獲った。今年はアダムがヒデキを連れてきた。4年ぶりの舞台はプロ初出場にして、世界の技を知らしめた。81回大会はアダムと遼との直接対決で、大興奮のうちに幕を開けた。4日間計4万5257人が見守る中で、最後は自身の勝利で最高潮に締めくくった。

11月のワールドカップでペアを組む石川。「これぞメジャーの雰囲気に、ヒデキがした」と言った。連覇を狙った小平は、「海外で活躍する選手はひとつレベルが違う」と唸った。世界ランク18位のゴルフが、これから世界を目指す若手をも刺激した。石川は、「その国の世界ランク1位が母国のナショナルオープンに帰ってくると、こんなにも盛り上がる」と感激したが、それこそアダムが願っていたことだった。
「こんな凄いギャラリーは、マスターズでしか経験してない」と言い残して今年は2日で去った。「この雰囲気が、大会をナショナルオープンにふさわしいものにする」と、アダムは言った。

松山は、「こんなにもたくさんの方に来ていただいて。お客さんを沸かせるプレーがしたかった」。ただその一心で戦った。
「以前はゾーンに入るというか、黙々とプレーする選手だった」とは、阿部靖彦・東北福祉大ゴルフ部監督だ。
「後輩にも、口で教えるより背中で見せるタイプ」との教え子の印象は、いつの間にかガラリと変わった。

世界で揉まれ、米2勝を手土産に、迎えた今季の国内初戦は心の成長も著しかった。
どこまで行っても途切れない大声援に、いちいち笑顔で応えて歩いた。
とりわけ、子どもの声にはなおさら優しい目を向けた。
「僕のプレーを見て、プロになろうと思ってくれる子がいてくれると嬉しい」。
9番のパー5では、セミラフから232ヤードの2打目で「イーグル獲って!」と、無邪気な声。
「獲りたいけど、難しいから、そんな上手くはいかないよ」と笑いながらも3番アイアンを抜いて、10メートルに乗せて、せめて果敢なイーグルトライで報いた。
「今日もほとんどフェアウェイには行かなかった」。
たとえショットは本調子でなくても、「アメリカでやってきたことが生きた」と本場で鍛えた小技を駆使して胸を張った。
16番で10メートルのバーディパットが勝利を決めた。
普段の米ツアーでもめったに出来ない経験を松山はこの今季初戦で味わった。
いつもはアウェイの戦いで、「こんなにも、お客さんがついてくれることはない。今回は、ホームというのを感じながらやれた」と、大観衆も味方につけた。
「これだけ応援してもらって不甲斐ないプレーは出来ない」と、プレッシャーを力に変えた。
「自分が帰ってくることで、こんなにもたくさんの人が来てくれる」と、肌で感じた。感激した。
この日もまた辺りは真っ暗な中でもサインを求める長蛇の列に、延々とペンを走らせた。
東北や熊本の人たちのことも常に胸に忘れず「僕のプレーで少しでも勇気や希望を持ってくれたら」。
主戦場は、あくまでもアメリカ。
「僕が海外で、活躍しているからこんなにたくさんの方が見に来て下さるのだと思うし」。
その信念で、毎年厳しいスケジュールに「無理をして、日本に出て、そこでベストなプレーを見せられないのはどうなのか」。
今までの、そんな躊躇も吹き飛んでしまいそうなくらいの大観衆に後押しされた。
「日本での試合を増やしたい気持ちになった」。
次週の米ツアーで再会するアダムにも、良い報告ができそうだ。

今大会は2010年と12年に、それぞれ3位と7位でローアマに輝いた。
12年にはここ狭山で行われた日本学生を制した。
当時はまだヒョロヒョロの痩身だった。
破格の逞しさで戻ってきても、やっぱり最終日の勝負服は大学のチームカラーを選ぶ愛校心はそのままに、プロとして初めて挑戦した思い出の舞台で今や、世界メジャーも勝てる力を知らしめた。

ウィニングパットの瞬間を待っていたかのように、好タイミングで近郊の秋祭りの花火が景気よくあがり、祝福ムードがいっそう高まる中で、しかし本人は最後のボギーパットを反省していた。
「日本のメジャーで勝ちましたけど、4大メジャーでまだ勝ててない。今日の最後のパットを入れないとメジャーでは勝てない。もっと練習して、入れられるように頑張ります」。
今度はメジャー覇者としての凱旋を、日本中のファンが本当に心待ちにしている。

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