KidsGolf

岩田寛が福島県でゴルフ伝道師に(4月22日)

4年1組の村上由美先生は気がかりだった。「もしかして子どもたちが何か失礼なことをしたのではないかしら・・・」。せっかく我が校にいらしてくれたというのにプロは朝からほとんど笑わない。棒立ちのままモジモジと、まるで越してきたばかりの転校生みたい。「だから心配で」と気遣われたのも無理はない。
「子どもは苦手で」とヒロシ。「嫌いじゃないんです」。むしろ好き。だけど「どう接していいかが分からない」と、そんな本人の戸惑いも、当の子どもたちはお構いなしだ。

最初のデモショット。「あのサッカーゴールに入れて」「向こうの家まで飛ばして」「太陽まで打って!」。遠慮のない注文にもうつむき加減に「へヘッ」と小さく笑うばかりで、淡々とナイスショット。ツアー1勝のプロにとっても初めてのスナッグゴルフは1打目を派手にダフるプロも多いと聞いて「僕も自信ない」との不安も杞憂に終わった。子どもたちの拍手と歓声にもぎこちなく、口角をにやりと上げて応えてみせた。

久しぶりのゴルフ伝導の旅。日本ゴルフツアー機構の震災復興支援の一環として、スナッグゴルフのコーチングセットが寄贈された東北3県43校のうちの1校である。4月22日にここ福島県西白河郡の矢吹町立矢吹小学校を訪れたのはヒロシ。県下では昨年から「ダンロップ・スリクソン福島オープン(グランディ那須白河GC)」が始まり、また今年は矢吹ゴルフ倶楽部でチャレンジトーナメントの「ミュゼプラチナムチャレンジ」が6月に開催されるなど盛り上がりを見せる中で、ヒロシも何か役に立ちたい気持ちで一杯。

二つ返事でこの貢献活動に参加したものの「子どもを教えるのは初めての経験」。最後まで借りてきた猫みたい。しかし午前中のレッスン会も、午後から「夢を持とう」の講演会でも相変わらず低いヒロシのテンションとは裏腹に、子どもたちは終始、大はしゃぎだ。「普段は自ら手を上げて、意見を発表しようなんて子はなかなかいないんですよ」とは矢吹町教育委員会の栗林正樹教育長。目を見張るような積極ぶりは「それはもう、プロと会えたのが嬉しくて、楽しくて仕方ないからでしょう」。

講演会では、ホワイトボードの前でも相変わらずモジモジと、自身の生い立ちの年表の書き出しで生年月日の「1981年1月31日」の字が小さすぎて「見えないよ!」。突っ込まれて苦笑いで書き直したヒロシ。でもだんだん、それなりに調子が出てきて赤裸々なヒロシの告白。
「幼稚園から中学校までずっと好きだった女の子と中2で付き合いました」。「きゃ〜!」「ウソ〜!」。おませな女の子たちの黄色い歓声。
「どうして結婚しないの?!」。顔色ひとつ変えずに「いいヒトがいないし自由がいいから」。キャーキャーと笑いながらも子どもたちには分かったような、分からぬような・・・。

中3でハマッたスケートボード。「本当はスケボーのプロになりたかった。でも父親にはゴルフをするって嘘ついた」。ヒロシの独特な世界に、だんだん子どもたちも引き込まれていく。素朴な疑問。「なんでお父さんに嘘をついたの?」。「今ならとても言えないくらいに、父親が厳しかったから。それでゴルフをせざるをえなくなりました」。そんなきっかけから、ここまでのぼり詰めたプロの凄さが子ども心に胸に響く。
「プロになる秘訣は?!」と聞かれて「いま何が食べたい?」と、一瞬ハテナの質問をし返すのもヒロシならでは。「肉」と答えた子に「その為にはどうする?」。帰ったら、お母さんに肉がいいと伝えて、お母さんが財布を持って、肉を買い行って・・・。「プロになるのもそれと同じで、その為に何をすべきか。辿っていけば、その方法が分かります」。身近な話題に引き寄せて、子どもたちにもわかりやすく話した。

特に午後からの講演会はスタッフも気になっていた。「あの一見、無口な岩田プロが何を語ってくれるのか」。そんな懸念もご無用だった。「話したかったことの10分の一も話せなかった」と、ヒロシは不服そうだったが媚びない言葉が、むしろ無垢な心に届くこともある。

プロになると決めたのは「お金を稼ぎたいと思ったから」とヒロシは答えた。今も苦い記憶はジュニア時代。「高校生がゴルフ場に行ったら、当時は生意気だと怒られたんです」。悔しかった。心に誓った。「プロになって、お金を稼いで、いつか自分のコースを買って、小さな子にゴルフの楽しさを教える」。未来のプロゴルファーには、自分と同じ思いを絶対に、させるものか。

講演会の最後にサインペンを走らせながら、今度は子どもたちの夢に耳を傾け「頑張って」と励ます声と、見上げる視線のまあ、優しさに満ちていたこと!
言葉は不器用でも「楽しかった」とあっという間の1日も、ただ1点どうにもヒロシが納得出来なかったのは「米に、牛乳は合わないと思うんです」。
久しぶりの給食は竹の子のご飯と牛乳の取り合わせに「小学生のころは、自分もなんの疑問もなく飲んでいたけど。本当は合わないですよね」。しきりに首をかしげるヒロシに、ご自身もゴルフをこよなく愛し、スナッグゴルフの導入に情熱を燃やす古市正雄・校長先生にとっても大感激の1日も、そこだけはひとつ恐縮しきりであった。
  • 児童を代表して、スナッグゴルフのコーチングセットを受け取ってくれた小4の渡辺鈴乃さん。みんなと一杯遊んでね。
  • プロとのガチンコ対決は、1打差で敗れたけれど、プロから愛用のサイン入りキャップをもらってクラス中の羨望を集めた佐藤鈴さん。プロも佐藤さんも笑顔がサイコー!