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チーム・ジャパン、固い絆
たとえば、前週のフジサンケイクラシックでは、薗田と石川がプレーオフの激闘を演じたばかり。
そんな10人が翌週にはいきなり手を取り合って、ともに栄光を目指して戦うことになり、「これほど濃い顔ぶれで、チームワークはどうなのかな」と、ひそかに懸念を抱いたのは何も、メンバーで2番目に年長の丸山大輔だけではなかった。
しかし、それも杞憂に終わった。
本戦前に幾度となく繰り返されたミーティング。木曜夜のチームディナーでは、和気藹々とテーブルを囲むうち、普段は知るよしもなかった仲間のお茶目な素顔を垣間見る。
チームへの愛着と、絆が深まる瞬間だ。
「よく知れば知るほどみなさん、良い人ばっかりで」とは、初の団体戦を経験した小田龍一。青木に「肝っ玉が小さい男」とからかわれながらも、戦い抜けたのはチームの結束力があったから。おかげで最終日には、「マイナスイメージを出すと敵につけ込まれる」と気づかされた。初日から2日間、ペアを組んだ小田孔明にも触発されて、「これからは、強い気持ちを忘れない」と、誓った。
丸山も「声をかけあったり、機会あるごとに握手し合ったり、最後はとても良いチームになったと思う」。
最年少メンバーの石川遼は、「素晴らしいチームワークで結ばれた。これでまた、来週からいつものトーナメントに戻ってしまうのは、少し寂しい」。
最終日は、金庚泰(キムキョンテ)とのシングルス戦。そのあまりの強さに韓国では“鬼”と怖れられ、特にマッチプレーでは負けなしと言われる強豪との対戦に、7打差をつけられ完敗した。
金は序盤から牙を剥いた。2番で連続バーディ。そして4番からは4連続。「バーディが途切れたときに、その隙を突けなかった」とまさかの大敗には、今後の反省材料もたくさんあろうが、まずは自分の悔しさよりも、「いまは日本が勝った喜びのほうが大きいです」。
まして、初日のフォアサムでは、薗田峻輔と組んで圧勝した。「せめて1ポイントでも日本の勝利に絡めたことが、凄く嬉しい」と、日をさかのぼって石川も自分を褒めたように、この3日間でチームに貢献しなかった者は、ひとりもいない。
初日から連敗を喫した藤田寛之と宮本勝昌のペアも、「このままでは帰れない」と、最終日に揃って勝ち星を持ち帰った。
宮本は、金亨成(キムヒョンソン)とのあまりの接戦に、2アンダーはタイスコアで迎えた最終18番で、6メートルのバーディを沈めて土壇場の勝ち点1にも、「両手を広げてガッツポーズ、という気にはなれなかった」と複雑な心境も、ひとまず責任を果たして安堵した。
藤田は前組の宮本を励みに踏ん張った。41歳の最年長メンバーは、若き金飛烏(キムビオ)に常に5、60ヤードは飛距離で置いていかれて、胸のうちで何度もつぶやく。「ゴルフは上がってナンボ。チームのために、絶対に勝って帰る」と。
前夜の選手ミーティング。藤田は宮本と片山晋呉とともに、キャプテン青木に呼ばれた。組合せ順を見せられて、「どう思うか」と意見を聞かれた。
ベテラン勢が先陣を固め、若手3人を挟んで片山で締める。青木は「最終マッチの本命は、やはり晋呉だろう」と言った。もし韓国とタイで並べばプレーオフも、過去5度の賞金王に「任せたい」とも。
青木の考えに藤田も、他のメンバーも異論はなかった。「最後は晋呉に背負ってもらいたいんだ」と言った青木に、片山も気持ちよく即答した。「やらせてもらいます」。
藤田にはその光景が、今も感動とともによみがえってくる。あのとき、確かにメンバー10人の心はひとつになった。
同時に、チームの団結力が増すほどに、個々のプレッシャーは、ますます大きく。
「来なければ良かった」と、横尾要は何度も悔いた。代表入りが決まったのは、大会週の前週。夫人の出産のため、やむなく欠場を決めた谷口徹のピンチヒッターは日本ツアーは1週間のオープンウィークも、すでに予定は満杯だったがすべてキャンセル。
勇んでチームに合流したが、日の丸を背負う重圧は想像以上。特に最終日のシングルス戦は、これまで経験したことがないほどに、痺れっぱなしだ。
前半の9ホールは9番の連続バーディで、一度はリードを奪ったものの、その後の李丞鎬(イスンホ)の猛追は強烈だった。2打差の4アンダーで迎えた最終18番では、先にバーディを決められた。
それだけに、残したわずか80センチのパーパットも「ものすごく遠くに感じた」という。
カップインの瞬間、思わず空を振り仰ぐ。安堵とともに「こんなのは、もうやりたくない」と、吐き出した。
と、すぐに前言をひるがえして「ここに来て、本当に良かった」。重圧を乗り越えて、チームに貢献出来たという喜びは、それを上回ってあまりある。
「こんな経験は、めったに出来ない。ここに来て本当に良かったです」と、横尾はしみじみと言った。
若い2人も無邪気に声を揃えた。薗田峻輔が「また次も絶対に出たい」と言えば、池田勇太も「次は連覇を狙います」。
もっとも、韓国だってこのまま黙っているわけがない。「いま、韓国では若くて実力のある選手が着実に育っている」と藤田も言ったように、日本チームの誰もがその精神力の力強さに改めて、畏怖の念を抱いた。次こそ、いっそう強い団結力で、心してかからなくては。