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三井住友VISA太平洋マスターズ 2010
石川遼が今季3勝目、逆転賞金王へ大きな1勝
石川が愛してやまないのは名物の高速グリーンや、ハイレベルのセッティングだけではない。たとえば全面ガラス張りのレストランで、富士山を眺めながら頂く食事。
「会場入りした日にいつも思うんです。今週は、こんなきれいな景色を見ながら毎日、こんな美味しいゴハンが食べられるんだ。そう思っただけで、ワクワクしてくる」。コースのみなさんの、暖かいおもてなしの心もまた、若者の食欲をそそる。
献身的な働きぶりで、いつも感心させられるボランティアのみなさんは、まさに縁の下の力持ち。また毎年、週末には1万人を超えるギャラリーのみなさんはきっと、マスターズのパトロンよろしく、今年38回目の伝統のトーナメントに何年も通いつめる常連だ。
ほぼどのホールもスタジアム風になったグリーンをぐるりと埋め尽くし、バーディトライのたびに、あちこちで飛び交う「入れ、入れ」との大合唱がこだまして、それがいっそう選手の気持ちを盛り上げる。
「雰囲気も、まるでオーガスタみたいで」。
心から、ゴルフを楽しむファンの無数の笑顔が見える。その中で、プレーが出来る喜び。まして、今年は最終ホールにリーダーとして上がり、万感の拍手で迎えられ、「とにかくこれ以上最高な瞬間はない」と、感極まった。
18番は2打目を打つ直前に、前の組のブレンダン・ジョーンズがイーグルを奪い、1打差に詰め寄ったが、すぐに石川も2オンに成功し、もはや優勝は約束されたも同然だった。3つで沈めてパーでも勝てる。
それでもバーディでのウィニングパットにこだわったのは、御殿場のギャラリーのみなさんに、最高のエンドマークを見せたかったから。大好きなコースでの初Vを、最高の思い出にしたかったから。しっかりとねじ込んでいつになく、こぢんまりと握ったガッツポーズにコースへの、大会への溢れんばかりの愛がにじんだ。
この今季3勝目が、大きなターニングポイントになる、という予感もする。大会直前には、3900万円以上もあった賞金ランク1位の金庚泰(キムキョンテ)との差。優勝賞金3000万円を加えて、約1300万円まで詰めて、「これ以上、差を縮める方法は今週はありませんでしたから。本当に、最善を尽くすことが出来ました」と、息をつく。
ウッズからヒントを得てスイング改造に踏み切ったのは、今大会直前。賞金レースは真っ只中のこの時期も、2年連続の頂点を狙う石川には現状維持などありえなかった。「今の位置をキープしよう、落ちたくない、というよりも、常に上を向いて勇気をもって決断することも必要」と、思い切った。
もっとも3日目までは、スイングがばらつき「本当に良かったのか・・・。今週は、あまり大きなものは望めないかもしれない」。弱気もかすめたが、それも最終日に吹っ切れた。
スプーンを握った9番のティショットは「今日一番。今までにないくらい速いスピードで、体が回転した。最高のタイミングでインパクトを迎えられた」という。さらに折り返しの10番のティショット。330ヤード超のビッグドライブは、「まさしく、素振りのように打てた」と、手応えを掴み、さらに11番で、この日2度目の3連続バーディを奪って一気に下位を突き放した。
前半は4番に続き、5番でマウンド超えの、10メートルの長いバーディトライを決めるなど、たとえショットに精彩を欠いたホールでも、近ごろとみに練習量が増え、練習法も工夫を凝らした小技で補った。6番でもバーディを決めて、最初の3連続で弾みをつけて、逃げ切った。
御殿場は4年目の挑戦で、ドライバー以外のクラブで攻めるシーンが格段に増えたのは「コースの怖さを知ったから」。それを克服する技もたずさえて、ベストアマチュア賞に輝いた2007年の初出場から確かな成長のあしあとを印したツアー通算9勝目となった。尽きることのない向上心と、勝利への執念で逆転の賞金王へと、望みをつないだ。
開幕前日は10日水曜日のプロ・アマチャリティ戦で、チームを組んだ元プロ野球の桑田真澄さんが言った言葉が改めて、胸に響く。
「日々進化を求めながら、なおかつ結果を出すのが真のスーパースター」とは、まるでこの日を予言していたかのようだ。
本人も「今日のようなゴルフが出来れば、また優勝できる」と、この1勝で自信も深まった。
19歳のヒーローが、また新たな伝説を作ろうとしている。今年もまたこの富士の裾野から、頂上へと続く一本の登山道が、くっきりと見えはじめている。