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Thailand Open 2013
プラヤド・マークセンが日本ツアー4勝目
首位とは4打差の6位タイからスタートした最終日は相変わらず熾烈なバーディ戦にも、ベテランは果敢に割って入った。48歳の躍動するプレーに、開催コースのタナシティゴルフ&スポーツクラブは、会場中が沸きに沸いた。
あちこちで上がる「マイ」の大合唱。マークセンの愛称だ。大声援にも乗せられて、面白いようにスコアを重ねた。
16番のパー5では、チップインバーディ。しぶとく粘っていた同組のスコット・ストレンジももはやこれまでだった。劇的1打が、勝利の合図となった。
母国の公式戦であるこの「タイランドオープン」は、1965年に第1回が行われて以来、長く続いてきた格式高い大会である。大勢の地元ファンに囲まれたヒーローインタビューは最初、通り一辺倒なスピーチに終始したマークセンを、彼をよく知る司会者がフォローした。
「彼は口べたなもので・・・。気持ちを表現するのがあまり上手ではないんです」。
そんな紹介で、改めてマイクを持たされたチャンピオン。照れくさそうにはにかんだ笑顔がふいに、泣き顔に変わった。大きな目に、見る見る涙がたまった。
「夢にまで見たタイトル・・・嬉しいです。この喜びを、タイの国民全員に捧げたい」。声を詰まらせながら、どうにか言葉をつないで涙ぐむ。
タイのホアヒンで生まれ、家計を助けるためにサムローのアルバイトに精を出した幼少時代。市内でキャディの仕事を始めたのが、ゴルフとの出会いだった。タイではいま欧州ツアーで活躍するトンチャイ・ジェイディが、ダントツの一番人気だそそうだが、苦労に苦労を重ねて今の地位を築き上げたマークセンは、彼とはまた違った意味で、絶大な人気を誇る。
地元ファンに聞いてみた。
「彼と話すと、性格の良さが伝わってきます。いまはスター選手なのにまったく気取りもないし、いつも優しく接してくれるから好き」。
今や彼が乗る車には、必ずパトカーの先導がつく。タイではもはやVIP扱いでもおごり高ぶることなく、コースではスタートの直前にもかかわらず、彼に群がるファンのサインにも、常に笑顔で応える姿がある。
優勝の瞬間も、ガッツポーズを握りしめたのはほんの一瞬で、すぐにファンのほうに向き直り、こちらでは「ワイ」と呼ばれるタイ式の挨拶で、両手を合わせて何度も深々と、腰を折った。
表彰式のあとは、周囲にはやしたてられ断りきれず、池に向かって豪快な勝利のダイブ・・・!!
全身びしょ濡れもいとわず、今回、運営を手伝ってくれた100人を超えるハウスキャディに出迎えられて、時間をかけてその一人一人と握手を交わして歩いた。
国王から賜った優勝カップ。国王に最高級の敬意を表して、写真に向かって一礼し、陳列棚から勝者が自らうやうやしく杯を手に取るスタイルも、この国ならではの優勝シーンでもっとも絵になる男が頂点に立った。
大会は長い歴史の中にありながら、タイ人のチャンピオンは、過去に2人しかいなかったという。「これで私がようやく3人目です」。
しかも、タイ人が勝つのは10年ぶりだ。「この勝利は私だけのものではありません。ここにいるみなさんと、タイの人々全員で勝ち取ったタイトルです」と、改めて感謝の意を示すと再び深々と腰を折り、居合わせた人々を喜ばせた。
それと特筆すべきはもうひとつ。今年、今大会はワンアジアとジャパンゴルフツアー(JGTO)と初の共同主管で開催されたことである。獲得賞金は両ツアーの賞金ランキングに加算され、両ツアーのシード権が与えられるこの大会で、日本で3勝をあげていたマークセンは今回、JGTO枠での“凱旋帰国”。
01年の来日からはるか日本で地道にキャリアを積み上げてきたことを、母国の人々に知らしめるかっこうの機会にもなった。