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日本プロゴルフ選手権大会 日清カップヌードル杯 2012
谷口徹が2度目のプロ日本一に
2打差の首位で出た最終日は前半に、22歳の薗田峻輔に首位を奪われた。後半は、ひとつ年下の深堀圭一郎との一騎打ちになった。深堀が背後に迫った。しかし再三のピンチも、「気合いと根性で、僕にはパーを獲る自信があった」。自力で取り返した信念は、二度と揺らぎはしなかった。後半の9ホールをすべてパーでまとめて逃げ切った。
最終18番は、2段グリーンの奥から池に向かって15メートルのバーディパットも「寄せられる自信があった」と、あとはわずか20センチのウィニングパットも待たずして、勝利のガッツポーズを幾度となく握り締めた。
昨年、賞金王を獲った裵相文(ベサンムン)が米ツアーに行くと知るなり「次は俺だな」。自身3度目のキング獲りも視野に、今までになくクラブを握ったこのオフ。のべ40日間も宮崎に居座ったのも、今までにはなかったことだ。
慕ってくる若手も拒まず、面倒を見た。松村道央ら、男子プロの常連はもちろん、女子プロの上田桃子選手ら“弟子”たちの常に良きお手本であろうとした。「球数もラウンド数も」。率先して数をこなした。練習にも根気よくつきあい、「それが誤算だったと思う」。
いざシーズンが開幕したら「ここ何十年かで最悪の状態」。例年はほとんどクラブも握らず、もっぱら家族サービスをして過ごす。いつもとパターンを180度も変えたのが、災いしたのか。「練習は裏切らないはずなのに。練習は、裏切った。練習しすぎてかえって自信を失った」と、冗談交じりの苦笑も、症状は深刻だった。
「イメージしたのと、まったくかけ離れた球が出る」。開幕から3戦で、心によぎった一抹の不安。「イップスにかかったかもしれない」。大会の2日目にはそれが、得意の小技にも影響を及ぼしていた。2打差の首位で出た最終日も、序盤に「どチーピンを打った」。6番では連続ボギーを打った。
萎えかけた心。弱気の虫を振り払う呪文は「もっとコンパクトにしっかりと振り切ろう」。最難関の8番パー4。ピンまで174ヤードの第2打で、描いたとおりのドローが打てた。7番アイアンを巧みに操り6メートルにつけた。「最高の1打だった。あのバーディは大きかった」と、あれほど悩んでいた不振もそのたったひと振りで、一瞬にして脱却の手応えに、夢中でガッツポーズを握っていた。
78回大会のチャンピオンが元気いっぱいで帰ってきた。18番のグリーンサイドで待ち構えた弟子たちが、水シャワーの手荒い祝福。びしょ濡れの師匠に「疲れたでしょう」とのねぎらいも、一蹴した。「何を言うねん、まだあとハーフはいける」と44歳が胸を張る。
連覇をかけた昨年大会は、首位と2打差で3日目を出ながら、1ホール目にして腰痛で無念の棄権。戦わずして去った。屈辱の記憶も一蹴した。早速リベンジを果たした今なら笑って言える。「去年は“欠席”みたいなものだから。今年が僕のなんちゃって“連覇”です」。
2度目のプロ日本一のタイトルはツアー通算18勝目。25勝まであと7つ。ツアーで6人しかいない永久シード入りにもいま、もっとも迫る選手が谷口だ。
大きな野望で胸いっぱいのベテランの原動力は、出身の奈良県で吉報を待つ子供たち。毎年、獲得賞金の一部を児童養護施設に寄付している。一昨年は、そこに今大会の特別賞の「カップヌードル10年分」を添えて、なおさら喜ばれたものだ。オフには、必ず施設のひとつを訪問することを、ライフワークにしている。一昨年は「ラーメンのおじちゃんが来た」と、例年以上の歓待を受けた。
「またプレゼントが出来ますね」。今年もいただいたカップヌードルを、早速子供たちに贈ろうと決めている。「みんな食欲旺盛なのでね」。今年の冬も、そんな子供たちの笑顔が見られる。「おいしかったよ、ごちそうさま!」と、可愛らしい声が今から聞こえてくるようで、コースでは強面の頬も自然と緩んだ。