記事
日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills 2021
遼のようなスター性はないけれど。木下稜介、29歳。初Vに向かって地道にコツコツ
ただでさえ、牙をむいた宍戸の中でも、17番は別格だった。
481ヤードと距離がある上に、右のOBゾーンに添って緩やかに下り、グリーンの前には池が待つ。
競技中断時点の平均スコア「5.017」は、大会史上ダントツの難易度。
2位と4差の暫定首位に立った木下稜介が、自分の順位を確認したのは174ヤードの2打目を8Iで、ピン奥2.5メートルにつけた後だった。
「途中で、ボードを見る余裕もないくらいに集中していた」。
終盤に、自身の立ち位置をやっと知っても、「あー、トップか、と。気持ちの変化をする余裕もない。茫然と見ていた」。
それはさておき目の前のバーディチャンスだ。
「カップ4つくらい切れる」と、読んだ。
「それに向かって、ボール1個半くらい(右に)打つイメージ」と、狙いをすますと「あとは、お願いします……!」。
思い描いたとおりに、軽いフックラインでカップに消えた。
この日、17番でバーディ奪取は5人だけ。
タフな条件を跳ねのけ、大量リードを奪った。
朝の予報では、中止や中断も覚悟していたくらいの悪天候でも、宍戸のグリーンは、びくともしない。
「あれだけ降ったのに、浮いてない。今日、回りきれたのはコースのおかげ。感謝しています」。
7月には丸1年、待ちに待ち焦れた遠征も控える。
昨年1月の「SMBCシンガポールオープン」での6位で権利を取得。
「今日の雨風も、『全英オープン』の予行演習という気持でプレー」。練習を重ねてきた低弾道のショットにも手応えが出てきた。
初のメジャー切符は確保するが、初優勝にはまだ届いていない。
今シーズンだけでも4度、5度とつかみかけたがどれも逃している。
「優勝に近づくと、グリーンに乗せたい、とか。パットを入れたいとか。余計なことを考えて、自滅する」。
同い年の松山英樹や石川遼と、自分を比べて考える。
「学生時代から、遼たちみたいなスター性は僕にはなくて、コツコツと上がって行くタイプ。優勝争いして、そこで学んでまた優勝争いをして。その繰り返しと思うので。周りを気にせず。自分のプレーをすれば、いつか結果はついてくる」と、信じる。
7月には30歳になる。「もう若手じゃない。どんどん、若いいい選手が出てきている。自分も、20代のうちに優勝したい。1か月後に全英オープンを控えてその前に、優勝して自信をつけたい」。
決勝ラウンドを前に、静かに気持ちを整理した。