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アイフルカップゴルフトーナメント 2003
『最終日は泣かないで頑張る!』鹿田英久に集まる、ツアー初優勝の期待
3日目、同組でプレーしていたのは、手嶋多一と宮本勝昌。いずれも、ずっと前から いつもテ レビで見てきたトッププレーヤーだ。しかも宮本は、「自分はハシにも棒にもかから なかった 」日大時代の1年先輩。「そんな2人と一緒にいま、自分は最終組で回っている・・・。 夢みたい だ」
信じられなかった。周囲には内緒でプロゴルファーを目指し、家業を手伝うかたわ ら、故郷・ 宇和島と滋賀県の信楽CCの約530キロの道のりを、2週おきに車で往復した98年から99 年の1年 間。あのとき、こんな場所に自分が立てることなど、想像もできなかった。
結局、後継者になることを拒否して家を飛び出し、それが原因で父の会社は倒産し た。「親不 孝者」とのレッテルが貼られ、それでも、ゴルフへの熱い思いを、押さえることがで きなかっ た。それらの長かった日々を思い出し、不覚にもプレー中に泣けてきたのだ。
前半は、イーブンパーで伸び悩み「このまま崩れ去るのだろう」と不安な気持ちを抱 えながら のラウンドだった。しかしこの涙で、吹っ切れた。
「どうせダメなら、思いきり行こう」。
後半から盛り返し、通算14アンダーで迎えた18番ティグラウンドでまた涙が出た。 「あかん、 あかん」と気を取り直し、残り170ヤードの第2打を右手前2メートルにつけてこれを 沈めて今 週、20個目のバーディ。さらに伸ばしてトップタイに「もう、ほんと最高のフィニッ シュでし たね!」。
ホールアウト後のアテスト場で、先輩から言われた。
「“ナイスプレー! でも大学時代はそんなにうまくなかったのにねえ”って (笑)」。底辺 から這い上がってきた者には、そんな言葉さえ最大の誉め言葉に聞こえてくる。
再び手嶋、平塚の2人のシード選手と回ることになった鹿田の最終日の抱負は、「明 日は、プ レー中に泣かないように頑張ること」だ。
3日目は、ギャラリー数人にサインを求められた。今年1月に作ったばかりのそのサイ ンにはま だ慣れておらず「毎回、字が違うんです」と笑うが、プレー中はロープの外からほと んど無名 の鹿田に「頑張れ!」とたくさんの声援も、送られた。これがツアー出場11試合目。 シンデレ ラボーイ誕生に、会場の期待が高まっている。