記事
JCBクラシック仙台 2006
谷原秀人が第二の故郷でツアー通算3勝目
「片山さんをやっつけられるのは、僕しかいない」。
そんな思いで、最終日を迎えた。
「技術では負けているかもしれない。だけど緊張しないとか、度胸があるという点では僕のほうが上」。
だから、1番でいきなりチップインバーディを決められてもビクともしなかった。むしろ、「今日も面白くなる」。
前日3日目のような大バトルを想像し、小躍りする気持ちになったものだ。
「若手の中では、僕が一番」と言い切れる。
その根拠はこのオフ、血を吐く思いで取り組んだトレーニングの成果だ。
専属トレーナーの山坂元一さんの指導のもと、毎朝5キロのランニング。昼から400メートルダッシュ5本、200メートル5本。
「こんなに、走ったことないってくらい。走りまくった」。
他にも、ベンチプレスに鉄アレイ。全身強化のハードメニューは、一緒にトレーニングに取り組んだ後輩の谷口拓也が、たびたび嘔吐したほどだ。
シーズンが開幕しても、それは続いた。
連戦でどんなに疲れていても、毎週月曜日のトレーニングは絶対に休まない。
昨年、左手首を傷めて苦しんだ時期もあるだけに、米粒をためたバケツの中に手を突っ込んで、中で3分間揉み続ける手首強化のメニューも欠かさない。
「あれだけやった、という事実が自信になる。おかげで疲れにくい体になって、ショットもイメージ通り飛んでくれる。アプローチ、パットのレベルも、確実に上がっていると感じられるから」。
成長のあとを知らしめるには、この上ない相手。片山を倒して、頂点に立つ。そう決めて、気合を入れなおした矢先だった。
2番ホールでアクシデントだ。片山が、足を痛めた。
以降、足をやや引きずりながら歩く姿に谷原は、歯噛みする思いになった。
「だって、今日も一緒にマッチ戦をやるつもりだったのに。あの雰囲気では、大会が盛り下がる。試合が終わってしまった、という感じがした」。
だから、16番で残り25ヤードからサンドウェッジでチップインイーグルを決めて、5打差をつけて大勝しても、喜びは薄かった。
「見ている人には、片山さんがああなったから勝てた、と思われるのではないか・・・」。
そんな懸念も、もし片山が万全の状態でも自分が勝った、という本音の裏返しだ。
どんな相手にも、ひるまない。むしろ、相手が大きければ大きいほど闘志を燃やして本能で立ち向かっていく。逆境さえ楽しんでしまうようなところが、谷原にはある。
壮絶なバーディ合戦を繰り広げた前日3日目。
ホールアウト後の練習グリーンで専属キャディの進藤大典さんが、片山に声をかけられた。
「今日のプレー、俺は面白くて仕方なかったけど。大ちゃんは、どうだった」。
「僕もすっごく面白かったし、谷さんもすっげえ楽しかったって言ってました」。
そう進藤さんが答えたとき、片山は「へえ」と言って目を輝かせたそうだ。そして、こう言った。
「いいね、そう思えるヤツは絶対に強くなる。またもう一度、そういう思いを味わいたくて、もっともっと練習するようになるからね」。
賞金王が、太鼓判を押した。
「谷原はまだまだこれから、もっともっと強くなる」と。