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ウッドワンオープン広島ゴルフトーナメント 2005
野上貴夫くしくも、34歳の誕生日につかんだ初優勝
そのプレゼンターは妻・文香さん。運ばれてきたのは、特大のバースデーケーキだ。
家族の前で目を細めてろうそくを吹き消した。くしくも自身34回目の誕生日につかんだ初優勝は、ただ単に「勝てた喜び」だけではない。
「さまざまなものを、運んできてくれた。大きな大きな1勝」だった。
アジアンツアーに参戦していた野上は96年にミツビシモータース・サウスウッズオープンでプロ初優勝を飾った。その優勝の資格で出場した96年キリンオープンが、国内のプロデビュー戦だった。同時に、95年から4回目の挑戦でプロテストにも合格し、98年から日本ツアーに本格参戦。
優勝争いにもたびたび絡み、99年には初シード入りを果たした。
順調に実績を残し、「もう、すぐにでも勝てると思っていた。それが、甘かった」。
2000年にシード落ちしてからの5年間。
「試合に出られないことが、何よりいちばんつらかった」と振り返る。
今年は、出場優先順位を決めるファイナルQTでランク48位に入ったものの、序盤戦はなかなか出番が来なかった。
大会週の月曜日の17時以降に欠場者が出た場合、QTランクから繰上げ出場ができる現地ウェイティング制度を利用してたびたび会場に足を運んだが、「行ってはダメで、行ってはダメでの繰り返し」。
練習だけしてまた家に帰る、という日々が続いた。
この大会は、その末にようやくつかんだ今年2試合目の出場権だった。
試合に出られない間も、ツアー復帰を目指して地道にトレーニングに励んできた。
7キロの減量にも成功し、引き締まった体は疲れにくく、何よりスイングのキレが違うと実感できた矢先だった。
猛烈な追い上げを見せたディネッシュ・チャンドとの雨中の接戦を制し、頂点をつかんだ。
次のトーナメントからはもう、待たなくてもいい。
これからは、堂々と会場に来て「仕事(ゴルフ)ができる」のだ。
「これって、夢じゃないよね? ほんとうに、夢じゃないんだよね・・・」。
プレーを終えてもしばらくは、その事実を実感できずにいたチャンピオンは、何度も何度もそう繰り返していた。