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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2001

「“宮本”でごめんなさい!」

宮本勝昌が「絶対に勝てない」と自ら予想した展開からの、大逆転V

 前日3日目。宮本は「僕の優勝は、ものすごいミラクルが起きない限り、ありえない」と、断言した。ショットが本調子でない上に、上位陣は深堀、伊沢、谷口・・・の強豪揃い。
 「四方を強い選手に囲まれて。まさに、ワールドカップの日本代表の心境です。普通にやったら、絶対に勝てないという、ね」
 首位の深堀と4打差でスタートした最終日。9番のハーフターンで依然としてその差が縮まっていないことを確認し、改めて「やはりチャンスはなかった」といったんは、諦めかけた。
 だが、14番。グリーン横のスコアボードで、差が1つに縮まっていることを知ると、「急に、ドキドキしてきて」、がぜん戦闘モードに。
 直後の15番、難易度の高いパー3は、4番アイアンで6メートルにつけてバーディ。首位に並ぶと、17番のパー5では、第3打のアプローチを50センチにつけ、逆転成功。

 だが、こんなスリリングな展開も、「ドキドキはしてたけど、心の中は、やけに冷静だった」と宮本は振り返る。

 「米ツアーで1年間戦ったことや、これまで、競り勝ったり、競り負けたりしたこと・・・。自分では、わからないけれど1打1打経験を積み、技術とはまた違った点で、強くなった部分もあるのかな、と思う。今日はずっと落ち着いたプレーができた。むしろ、もっと派手なガッツポーズで、自分をアピールしたほうが良かったかな、と後悔しているくらい(笑)」

 98年大会でプレーオフの末、ジャンボ尾崎を下し、米ツアーに挑戦した99年シーズン。世界の壁に阻まれて、翌年、傷心の帰国をしたが、それでも世界の舞台で揉まれた経験は、確かに、宮本の成長の糧となっていた。
 脳裏に焼きついた、「ハングリー精神」むき出しの、米ツアー選手たちのプレー。

 「どんな状況下からでもスコアを作って上位にのし上がる。トップ10の強豪選手意外は、ある意味“汚い”ゴルフをする。僕も拾って拾ってパーをとる、汚いゴルフ。今週のゴルフには満足いかないけれど、コースマネジメントや、ゴルフの組み立てで、なんとか補うことができました」
 1打差で迎えた最難関の18番パー3。ここでも宮本は冷静だった。
 3番でいくか、4番でいくか迷ったティショット。結局、4番アイアンを握ったのは、「グリー手前からアプローチで寄せるより、「ピン奥へ行っても、とにかくグリーンに乗せたほうがいい」と判断したからだ。ショットに自信はなかったが、この週、パッティングには自信があった。それを、最後の18番グリーンでも証明した。
 奥から15メートルのバーディパットは、3パットしてもおかしくない、下りの急傾斜。この難しいパッティングを、1メートルに寄せてパーセーブ。
 「今週、タッチは合っていたから、あとは、方向性だけでした。・・・あれだけのタッチが出せるのは、ジャンボさんか僕だけじゃないかな(笑」

 優勝候補の深堀、ベテラン中嶋、賞金王・伊沢らを下しての逆転Vに、「深堀さんでもなく、伊沢さんでもなく・・・“宮本”でごめんなさい」と、満員の観衆に頭を下げた、2001年最後のチャンピオン。
 だがすぐに、「・・・でも、この謙虚さが、今回の勝因です」とおどけると、夕焼け色の18番グリーンは、大きな笑いに包まれた。

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