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<シリーズ>ツアープレーヤーを支える人々プレジャー・坂田泰輔さん
シーズン中は移動式トレーラー、通称フィットネスカーが仕事場だが、普段の“本拠地”は東京お台場。
オフシーズンは、この“近未来の街”に悠然とそびえ立つ「ホテル グランパシフィックメリディアン」内のフィットネスクラブ『ル・クラブ』で活動している。
「オフトレーニングの目的は鍛える、というよりも、1年を通じてケガをしない体を作ること。それがまず第一ですね」と坂田さん。
ゴルフのスイングは、一方通行の動き。
酷使する箇所と、まったくといって良いほど使わない箇所の差が、どうしても出てくる。1年戦い終わったあとの体は、左右のバランスが悪くなっている。
「その差は、選手個々によっても違っていて。だからこそ、ただやみくもにトレーニングすればいい、というわけではないんです。その選手は、左右どちらが弱くなっているのか、または、どの箇所が硬くなってしまっているか。それを見極めた上で、まずは体全体をバランスよく整えることから始める。それが出来てからでないと、どんなに練習しても無駄になってしまいます」。
たとえば、クラブの“常連”のひとり、加瀬秀樹の場合。
昨年、左ひざに故障を抱えていた。そのせいで、思い切りクラブが振れていなかった。シード権確保に手間取った要因のひとつでもあった。
シーズンが終わるなり、坂田さんがさっそく加瀬に勧めたのは、まずは左でん部を鍛え直すトレーニングメニュー。
開始して1週間後に井上透コーチの沖縄合宿に参加して帰ってきた加瀬が、声を弾ませたという。
「すっごく、気持ちよく(クラブが)振れるようになったよ!!」。
加瀬は左ひざをかばうあまり、左側のでん部の筋肉が、弱くなっていた。それで、ますます悪循環に陥っていた。坂田さんはトレーニングを開始する前に加瀬の体の隅々まで目を光らせ、それを見抜いていた。
坂田さんは言う。
「・・・もちろん、僕が提案したメニューが必ず成果につながる、という保証はどこにもない。それでも選手のみなさんが僕の意見を受け入れて、努力してくださって、さらには『実際に効果があったよ』と言って喜んでくださる・・・。こんなに嬉しいことは他にありません」。
ハキハキとした声。きびきびとした動き。選手の声に真摯に耳を傾けようとする姿勢。
トレーニング指導を行う坂田さん。その行動のひとつひとつから、誠実な人柄がにじみ出ていた。