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宮本勝昌「夢を持とう、そして感謝しよう!」

こんな大勢の子供たちの前で話すのも初めての経験。慣れないチョークで黒板に自分の人生を綴る手も緊張で震えた…!?
そして5時限目。いよいよこの日最後の授業がやってきた。与えられた45分という時間のために、あらかじめ決めていたテーマは「夢を持とう」だ。

その中で宮本は、2つの言葉を子供たちの未来に託した。

静岡県熱海市で生を受けた1972年から始まって、節目ごとに黒板に記した自身の“人生年表”の「現在」のところに、大きくチョークでこう書いた。

「己に勝つ」。
日大時代の恩師の言葉だ。
そして2つめは、常に自らに課している「継続は力なり」。

宮本にとって、夢を叶えるためのキーワードがこの2つだ。

「プロ野球選手になりたい」と、焦がれた小学生時代。
しかし、少年野球で自分より体格も大きく、才能溢れる選手たちを目の当たりにして、いつの間にかその夢はしぼんだ。

かわりに芽生えたのが、「プロゴルファーになる」。
もっとも、初めは漠然としていたその目標も、18歳の関東高校ゴルフ選手権で人生初の優勝を飾り、さらに19歳で日本アマを制してから、ますます確固たるものになった。

以来、先の2つの言葉がこれまでどれほど自分を支えてくれたかを、子供たちにとうとうと説いた。

つい、練習をさぼりたくなる自分。
楽をしたがる自分。
または、プレッシャーに押しつぶされそうになる自分。
戦いに負けるたび、夢を見失いかけてしまう自分…。

そんな弱い自分に打ち克ってこそ、今がある。
また、その末に手に入れた勝利だからこそ、格別な喜びがある。

昨年の開幕戦「東建ホームメイトカップ」を含むツアー通算7勝は、その何百倍も多く味わってきた敗北の悔しさをはね除けて、地道な練習を続けてきたからこそだと胸を張って言える。

「それは、ゴルフでも勉強でも同じだと思うんです。同じことを毎日繰り返すのはつまらないし、退屈です。
でもその先にしか、夢の実現はないんです。
自分に勝ち、何日でも何年でも繰り返し続けていくと、それがやがては必ず大きな力になる。
いまは、まだ自分の夢が分らないという子がいるかもしれない。
それならば今は、とにかく目の前にあることを一生懸命続けてみて下さい。
それこそが自分の夢の実現のために必要なことだったんだと、気付く日がいつかきっと来る。
そのときを信じて、みんなにも頑張って欲しいんです」。

そして、何より夢の実現を支えてくれた人の存在だ。
宮本を、ゴルフの道へと誘ってくれた父・勝雄さん。
しかし10代、20代のころの自分は感謝するどころか「いつかオヤジを見返してやる」という気持ちばかりで一杯だったという。

勉強や練習を少しでもさぼると、真冬に裸のまま外で何時間も立たされるなど、今なら世間が目を剥くような体罰もしょっちゅうだったからだ。

それが実は愛の鞭だったと気が付いたのは、30歳を越えたころ。
「父親がいてくれたから夢がかなったのだ」と、ようやくそう思えるようになり、今では1年に1度、それも自分の誕生日に必ず両親に感謝の気持ちを伝えることを習慣にしているという。

「…でも、僕の場合は気付くのが遅すぎて恥ずかしいくらい」と苦笑してから、「みんなにはぜひ、いますぐにでもお父さん、お母さんにありがとうの気持ちを伝えて欲しい」と、子供たちに呼びかけた。
ちょっぴり苦い後悔を噛みしめて、「みんなはいいなあ…。僕より20年も早く、それが出来るんだもの」と、心底子供たちを羨んだ。

45分間を目一杯に使い、心をこめて話しかけた選手会長は、最後に子供たちに将来の夢を発表してもらうかわりに、今の自分の夢を子供たちにも打ち明けた。

「僕のいまもっとも大きな目標は、マスターズに出場することです」。
今年、17歳の石川遼が権利を獲得して大きなニュースとなった夢の舞台にいつか、自分も出場してみたいということ。

そして、もうひとつ。
「今回、初めてみなさんの前でこうしてお話させていただいたように、これからも全国の小学校でゴルフの楽しさを伝え続けていくことです。この夢はその気になって頑張れば、マスターズよりかは早く手が届くかな」。

今回の学校訪問をきっかけに、“ゴルフ伝道師”の道を究めて行きたいという欲求が、ますます強くなっていることを、選手会長は自覚していた。
講演会の最後に、プロへの励ましの言葉と将来の夢がぎっしり書かれた子供たちの寄せ書きを受け取って、「教えに来たつもりが逆に、箕蚊屋小のみんなにパワーをもらいました」と、感謝した。

  • 授業の中で、恥ずかしそうにしながらも、自分たちの夢を語ってくれた子供たちに宮本も自身の夢を打ち明けた
  • 色紙一杯にメッセージを綴った寄せ書きを贈ってくれた子供たちには…
  • お返しにサインボールをプレゼント。お別れの挨拶とともに、一人一人に手渡した!

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