Tournament article
つるやオープン 2010
賞金王がV争い
今年から導入された「クラブフェースの新溝規制」に対応したロフト60°のそれは、第1ラウンドの11番でも、チップインを決めている。
そしてこの日は190ヤードの16番。
ここ山の原のパー3は、どれも距離が長くて手強い。昨年の予選落ちにも大きな影を落とした難所のひとつで堂々と成長のあとを示してみせた。
7番アイアンで、グリーン奧に打ち込んだティショット。深いラフからのアプローチはボールがグリーンに着地した瞬間からすでに、本人はカップインを確信していたようだった。
「イメージした点の、半径20センチの円の中には落ちたと思う」。
完璧なロブショットは本人も会心の1撃だった。
「神様がくれたチップイン」。
歓喜の思いを全身全霊で表現した。
まず例のサンドウェッジを握りしめたまま、その左腕を天に向かって突き上げた石川は、カップめがけて転がり続けるボールのあとを追うように、力強く歩を進めた。
続いて、右手は真っ直ぐに体の前へ。
ボールに向かって人差し指を突き刺した。その姿勢のまま5歩、10歩と歩き続けた。
そして最後に決めポーズ。
加藤大幸キャディに向き直り、どうだとばかりに人差し指を突きつけた。
「あれは相当、久しぶりに熱くなった」と、石川は振り返る。
「熱くなるのは一番、ゴルフをしていて気持ち良くなる瞬間」と、拾いあげたボールを観衆の中に投げ込んで、大歓声に陶然と身をゆだねたが、それでも非凡な18歳は波に呑まれることはない。
自身のスーパーショットに興奮しきっているように見せかけて、その直後にはもはや冷静に、次のことが頭にある。
チップインでいち早くホールアウトして、他の選手のプレーを待って、さらに次ホールへと移動するときも、「心に波を立てないようにするので必死だった」という。
チップインやホールインワンなど、奇跡のプレーをした後は舞い上がり、大叩きをする例は少なくない。
浮ついた精神状態がそうさせるのだろうが、石川は一番にそれを警戒していた。
だからこそ、「さっきのアプローチを打つ前と同じ精神状態というか、落ち着いて、攻める気持ちを忘れずに持とうという努力をしていた」という。
甲斐あって、次の17番でティショットを打つときにはすっかり心の平穏を取り戻していた。
ドライバーでフェアウェーを捉えて「ひと安心」。
グリーン左のバンカーからのアプローチを80センチに寄せて、15番から数えて3連続はこの日5つめのバーディを奪い、通算6アンダーは4打差の2位タイ。
昨年10月の日本オープン3日目以来となるボギーなしのラウンドで、一気に優勝争いに加わった。
2年連続のマスターズでまたしても、悔し涙の予選落ち。
帰国早々は休養を取る間もなくスイング改造に、アプローチ練習に、多くの時間を費やしてきた。
その甲斐あって、「これだけ気持ちよく振れるのは、経験がない」と、言い切ったほど。
疲れもあって、先週の国内初戦は予選落ちを喫したが、わずか1週間で持ち直してきたばかりか、日に日にたくましさを増していく。
54ホールの競技短縮も「追い風」にしてみせる。
「明日も一番上を目指してやっていく」と賞金王は宣言した。