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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2018
ツアーで一番小さな巨人が誕生した瞬間。今季賞金王の知られざる強さ
「よっ、日本一!!」。
おずおず帽子を脱いで、いつもの静かな笑みでハニかむ。シーズン途中に婚約を発表した菜々恵さんが、ちょっぴりあきれ顔で笑った。
「こんな時でもいつもと変わらな過ぎて。周吾さんは、逆にそこが凄い!!」。
若くて、ツアーいち寡黙で小さな巨人が誕生した。26歳と61日での栄冠は、日本人では石川遼の18歳80日と、松山英樹の21歳286日に次ぐ3番目の年少記録。
「賞金王は、年に何勝もするイメージ」と今週のシーズン最終戦でせめて今季2勝を公約に掲げたが、届かなかった。76年の青木功以来、42年ぶり史上2人目の年間1勝の王座獲りも、かの青木が無口なキングを代弁した。
「1勝しかできないから云々ではない。勝つに越したことはないけれども1年通じてすごく、頑張ったと思うし勝たなくても賞金王になれるということを、誇りに持って欲しい」。
14年に、ツアー二部のチャレンジ(現AbemaTVツアー)賞金王に輝き、本格参戦を始めたころから、周吾は報道陣泣かせだった。
いつもニコニコ笑顔で接してくれるが、質問には「はい…」「そうですね…」と、当たり障りのない回答ばかり。
あまりの口数に「キョンテのほうが、日本語がうまい」と、冗談をいう先輩プロも。
本人も分かっていて「普通な感じではない」と性格を、自己分析する。
「あまり表現しないところとか…。気持ちを表現するのが苦手で。変わった人と、思われていると思う」とそれなりに、周囲の視線は気にしても、プロ転向から7年経たいまもついに、迎合することはなかった。
同級生の堀川が、今平を「メンタルの強さはツアーいち」と、表した。
秘めた素顔を初めてさらした、と言っていいのが昨年7月のセガサミーカップだった。
最終日の18番で2打目を池に入れ、悔しい感情を爆発させた。
世間から批判を受けたが、専属キャディの柏木一了さんは内心、喝采した。
当時、組んで2年目。
「今までまったく気持ちを出せなかった子が、出せるようになった」。
その年末には賞金レースに加わり、賞金ランクは自己最高の6位。心技体ともに飛躍の年とした。
1年後に満を持して得た身長165センチの称号は、歴代の中で最も小さいキングという。
生前の杉原輝雄氏が、低身長と飛距離を補うために超・長尺ドライバーを使って話題になったが、今平はあえてシャフトを余らせ短く握る。
「短く持つと、距離が出ないと言われますけど、僕の場合は変わらない。振りやすさも方向性も、短く持ったほうが僕はいい」。
20余年のキャリアで男女合わせて50人以上を担いできた柏木キャディは「毎ショットで8割、芯を食う選手は初めて」と、証言。
「球を、芯でとらえる力は天才的」とは、今季から組む渡辺研太トレーナーだ。
その秘訣として「彼は、バランス力がヤバいんです」。
瞬発力や、柔軟性は人並みだから、一見わかりにくいが「体の重心を瞬時に察知する力」。一昼夜には身につかない力。「だから、どんなライから打ってもぶれない。誰にでもできることではない。今までプロ野球も見てきたが、彼ほど平衡感覚に優れた選手はいなかった」と、渡辺さんはいう。
いつ、どこで養われたか。興味を持った渡辺さんが聞いたら「何をしたらいいのかわからなかったので、ひたすら階段を走っていた」と、答えたという。
自宅近くの展望台に続く心臓破りの階段。今も時間があれば黙々と駆け上がる。
専門用語で自身の体重を使った「自重トレーニング」というそうだが「無理なダンベル上げに頼るのではなく、自分に最適な方法を見つけてコツコツ努力してきたことにもアスリートとしてのセンスを感じる。パッと見ただけでは凄さがわからないところが今平選手の凄さ」。
もともとの身体能力に加えてさらに、今季は渡辺トレーナーと、関節の可動域を広げる取り組みをしたことで、「スイングアークが大きくなり、飛距離が伸びた」と、平均287.09ヤードを記録。パワーをそなえた無類の安定感が完成された。
幼少期から、実は底なしの負けん気の強さで、3つ上のお姉さんにスコアで負けたとよく悔し涙を流していた。
控えめなようでいて、わが道を貫く強さ。
抜きんでた平常心と集中力。プレー中も、柏木キャディのいうことを、聞いているのかいないのか。
「風とかラインとか。さっき伝えたことを、また聞いてきたりする」。ああ、そうかゾーンに入っていたのか、と柏木さんは納得する。
それでいで、ふいに飛び出すオヤジギャグ。
「あそこ、幅ないよ」と、柏木さん。
「幅(ハバ)ナイスディ」。ドヤ笑みで返す周吾。
26歳と51歳の年の差コンビが、足並みそろえて頂上までのデコボコ道を歩き切った。
柏木キャディが、選手の代わりに不名誉な称号を背負ったのは昨年。
10月のWGC「HSBCチャンピオンズ」で遅刻をして失格になった咎でその年、キャディ部門の逆MVPといわれる「ダメキャディ・オブ・ザ・イヤー」を受賞。
プロ仲間や関係者の「キャディを変えたら周吾はもっと勝てる」と、笑えない冗談にも耐えて、ついに2人で頂点に。
「ダメな俺を日本一のキャディにしてくれた。周吾には、感謝しかない」。
あいかわらず無口で、普段どおりのキングに代わって饒舌で、感情豊かなベテランキャディが感無量だ。