首位がめまぐるしく入れ替わる。
大混戦は好物だ。
浅地洋佑(あさぢ・ようすけ)が、19年にツアー初Vからさっそく2勝目を重ねた「ANAオープン」は、史上最多の5人によるプレーオフだった。
追い込まれると強い。
「あそこに打たなきゃいけないとか。そういう時の方が気が楽」と言った。
「フェアウェイど真ん中からピンを狙えと言われるより、ピンが見えないほうから行く方が楽しい」と、むしろピンチに心が躍る。
最終組の3人で、もつれにもつれて入った17番こそ真骨頂だった。
向かい風の第1打は、「いつもと違う。やったことがない風」と、リキんで左に行った瞬間、思わず手から離れたドライバーは地面にバタリと落ちた。
深いラフに入った2打目は前方に林と2本の木。
まっすぐには狙えない。
絶体絶命の場面。
だが、「林は7番アイアンで普通に打てば、超える高さ」と、瞬時に計算。
「逆に、手前に出ている木に当てない方が大事。左にはOBがある。しっかりスライスをかけて、左には引っ張らないように。そこだけはクリアしよう」と、思い描いた通りの弾道は、林向こうのピンをみごとに捉える奇跡みたいな技ありの1打。
さらに、7メートルものバーディパットも沈めて混戦を抜け出すと、18番のティショットはフェアウェイど真ん中。
「ほかのお2人が3打目勝負だったので。乗せれば勝てる」と170ヤードから8番アイアンで今度は楽々2オン成功。
2シーズンぶりの3勝目を逆転で引き寄せた。
1差の3位タイから出た最終日は前半の8番から連続ボギーを叩いてストレスをためるそぶりも見せた。
でも、砂混じりの右ラフから木の下をくぐらせピンに絡めた7番や、ウッドの2打目を5メートルに乗っけて首位に並んだ15番など、窮地でこそ恵まれた才能と実力を発揮。
平凡な勝利は望まない。
「最後まで浮き沈みがあったラウンドでしたけど。結果的には100点満点」と大喜びした。
女手一つで育ててくれたお母さんの手ほどきで6歳からゴルフを始めた。
「ショートコースでネット超えのアプローチをよくやった」と、杉並学院高校で、2つ上の石川遼も認めたショートゲームは遊びの延長で磨かれた。
「得意だからこそもっと底上げするために」と、日本予選を突破して初挑戦した今年6月の「全米オープン」からウェッジ4本でプレー。
48度、52度、57度、62度を多彩に打ち分け「どんどん狙っていけるし、どこに行ってもビビらない」と、飛距離の不足を小技で武装。
「僕みたいなプレースタイルだと長いコースに行ったら歯が立たないので諦めます。でも、距離が短くて、狭いコースに行ったりするとスイッチが入る。ウェッジに頼って頑張ろうかな、というスタイル」と、思い向くままメリハリを効かせてプレー。
「安定は…、したいですよ。でも、試合によって浮き沈みが激しいらしいです、僕」と、ひとごとみたいに笑い、「トップ10は少ないけどトップ15は結構あった。今年は予選落ちも少ないし、僕の中では安定してる方」と、この1勝で獲得賞金は5000万円を越した。
「あと4試合あるので。賞金1億円を超えたいです。…毎週2位で(笑)」と、冗談交じりに残りシーズンの目標設定。
サンバイザーから覗いた赤い髪も「1回やってみたいなと。ただそれだけの理由で1ヶ月前に染めた」と、ただただ興味本位だったが「周りの評判はよろしくない」。
これまで茶髪、金髪、銀髪…と変遷してきた髪色。
「次は、何にしようか」。
常に変化を好む男は、なんと言われようと黒髪には戻す気なさそうだ。