「あの子は小さいころからあんまり感情を出さんのです」とは、金・土・日と、毎日車で2時間半、大阪府吹田市の自宅から、応援に駆けつけたお父さんの憲良さん。
でも、さすがに歓喜の瞬間は、小さくても思いのこもったガッツポーズが出た。
この1打に挙げたのは、7メートルを沈めて単独トップに出た16番ではなく、3.5メートルをしのいだ17番のパーパットだ。
「ドライバーは飛ぶ方じゃない。でも外してもいい方に、と強く思ってプレーしました。耐えるゴルフができるときは結果もいい気がしています」と、今週のパーセーブ率は1位。
4日間でボギーもわずかに3つ。
それでいて、本戦では3Wを握り続けた18番で、プレーオフの3ホールとも飛ばし屋の中島に対抗し、「行くしかない」と1Wを強振。
メリハリのゴルフを支えたのはもちろんミズノのクラブだ。
「いつもすごいわがままいって、僕の要望通りに削ってもらって、3アイアンは一番新しいモデルで球を上げることができる。少しは恩返しができたかな・・・?」。
ホストVは、2015年の手嶋多一以来。
「4日間ハラハラして。最後は心臓がつぶれるかと思いました」と、歓喜の瞬間を待ちわびた水野明人・社長の両手を、若いホストプロはまろやかな笑顔で包んだ。
家庭でも、あまり感情は出さないそうだが愛犬のミニシュナイザー「ププ」と「ビビ」を語る際には「存在自体が僕の癒やし。ゴルフを頑張る理由のひとつ」と、いつになく言葉が弾み、目尻も下がった。
初めてクラブを握った7歳時には「僕もやらせて!」と、全力で主張。祖父の富夫さんは最初、平田の3歳姉の璃乃さんにゴルフをさせたかったそうだ。
「憲聖は来んでいい、という私の父に、僕も行くといってきかなかった。そういう気の強さはありました」(平田の父・憲良さん)。
一昨年の大阪学院大3年時に日本学生で優勝し、その権利でサードQTの資格を得て「今年がチャンス、と」。本人の強い決意を汲み取った学長や監督が、大学史上初の在学プロを許可してくださった。
その2年後の初Vだ。
「僕の無理を聞いてくださったことに感謝しています」と、改めて謝意を述べた。
優勝賞金で買いたいのは「乾燥機」という。
「家に洗濯機はあるけど、乾燥機はないので、いつも干してくれるお母さんに。ちょっとでも楽になってもらいたい」という孝行息子。
プレーオフで2位に入った中島啓太(なかじま・けいた)のほか、昨年の「日本オープン」で史上初のアマ2勝を達成した蟬川泰果(せみかわ・たいが)もすでに「全英オープン」の出場権を持っている。
「2人とも、アマチュアでプロの試合に勝っていて。テレビ越しに凄いな、と思うと同時に悔しい思いも抱いていた。いつもいいほうの刺激をもらってます」と、仰ぐばかりだった同学年らと共に来月、聖地へ。
「夢の舞台。今からワクワクします」。
お父さんの名前の一字と、お母さんが尊敬する方の名前の一字を充てて「憲聖=けんせい」。
ケンケンの大冒険。
「まさか息子が勝って全英に行けるとは思ってもいなかったので・・・」と、お父さんもついていくかはまだ思案中。
「仕事もあるし、急には決められません」。
嬉しい悲鳴も親孝行だ。