観戦用のロープ際にひしめくお客さんの笑顔。
「近くでインパクトの音を聞けたり、ショットを見やすくするために、石川プロが考えて、ローピング(プレーエリアとの境界線)を近くまで寄せてくれたので」。拍手や歓声も、より近くに聞こえてくる。
選手会理事らが中心となり、一丸で迎えた主催試合のクライマックスで、大会会長自ら主役になった。
優勝杯を勝者に渡すのは、もともと選手会長の仕事。
きゅうきょ選手会事務局長の宮里に代わってもらい、宮里の司会で受けた優勝インタビュー。
「優勝、オレ?」と、笑顔でマイクを向けられ「オレからオレ」と、破顔一笑。
谷原秀人(たにはら・ひでと)が通算18勝目。
「まさか、まさか勝てるとは・・・」。
毎日、早朝からコースに来て第1組からティショットを見守り、全員が終わるまでコースに残り、労いや励ましの声をかけてくださった佐藤元・社長。
「そんなスポンサー様はなかなかおられない。選手会主催として3年前から開催していただいている。本当に感謝しかありません」。
Vスピーチで選手会長の謝辞を兼ねられたというのは感慨深い。
プレーオフで破った22歳の長野泰雅(ながの・たいが)は自身の年齢の半分にも満たない。
「予選で回って50ヤードは置いて行かれた。すごいプレーをしていたので長野くんと戦ってみたい、という気持ちだった」と、嬉々として若者に挑み、「僕はプレーオフの経験がある(それまで2勝2敗)。初めての長野くんはどんなプレーをするのかな」と、冷静に運び、ティショットを右林に入れた長野に対してフェアウェイキープ。
「長野くんはパーセーブする可能背もあったからバーディを狙った」と、6アイアンを持った残り151ヤードの2打目をピン5メートルに。
先に長野がパーパットを外したのを見て2パットのパーで決着し、「そのままで大丈夫。次は勝てる」と、ハタチの敗者の肩を叩いた。
今週は、海外にいる金谷や、久常や、渋野さんも、地元広島で起ち上げたジュニア大会で教えた子たちだ。
自分はまったく覚えてないのに、「覚えています」と言ってくれる子たちと同じ舞台で、技と経験を駆使してまだ互角に戦える。
「やっててよかった」と、思う瞬間を、主催試合で味わえた。
飛距離やショットのデータ測定器が昨今の若者たちの必需品だ。
でも44歳は、「頼りすぎると余計に分からなくなる。今はイメージや感性を大事に」と、数字に縛られることをやめ、海外ツアー参戦時にしゃかりきに求めた飛距離への執着も捨て「今はマイペースにゴルフをする。それこそが経験」と、胸を張る。
最近、よくぶり返すぎっくり腰は多分、昨年生まれたばかりの長女・悠香ちゃんの影響も。
「だってアァ~って来たら誰でも抱っこしますよ。可愛いもん!」と、懲りずに治療に精を出し、懸命に年齢にあらがい「ただ上手くなりたい一心です」。
上達への思いは日々尽きない。
「スイングは毎日変えます。プロゴルファーは、みんな自分のスイングが嫌いなはず。嫌いな部分が多すぎるからなんとかよくしようと頑張っている。今週も変えてます。アイアン、ティショットの精度も。ドローもフェードも。モチベーションはある」。
若い子にも負けない向上心を主催試合で改めて見せつけた。
V副賞の「サトウのごはん10年分」は、10年前に起ち上げた自身の財団を通じて寄付させていただくつもりだ。
「親を持たない子たちはたくさんいらっしゃるので。お米という大切なものを、いっぱい食べていただきたいな、と思います」。
選手会長が、主催試合でゴルフも人生も背中で見せた。