木下稜介(きのした・りょうすけ)は3年ぶりの通算3勝目で、3年ぶりの全英切符を獲得して「初優勝かというほど嬉しかった」と、言って目を潤ませた。
「あの1打で人生が変わったといっても過言ではない」と、回顧するのは初日の3番ホールで、規定打数を3打縮める“令和最初”のアルバトロスを達成した2019年の本大会だ(会場は茨城県のザ・ロイヤルGC)。2019年大会で令和初のアルバトロスを達成しました
その翌シーズンの20ー21年に、初優勝からの連勝で一気に2勝を飾ってから丸3年。
「長かった…」と、涙ながらに息を吐く。
「何か縁があるこの大会で、3年ぶりの優勝ができたのは不思議な気持ち」と、かみしめる。
勝てずにいた3年で、気づけば「中堅」と呼ばれる年齢になっていた。
「もう若手ではない」と、いちばん痛感するのは飛距離の差。「自分は3年前から変わっていない。むしろ、3年前より飛んでいるのにそれ以上に若い子たちが飛ばすので…。困ってます」と、苦笑する。
大阪学院大で9歳下の平田憲聖(ひらた・けんせい)が、プロ転向したのもちょうど3年前だった。
デビュー時に一緒に回った頃より「今は飛距離も出るし、成長の速さがすさまじい」と、勢いに目を見張る。
「あと何がすごいって、彼が昨年のこの試合でホスト優勝を飾ったこと」。
ミズノの契約選手として結果を出す後輩の精神力にも驚かされた。
「今年も連覇に賭ける強い思いを感じたし、きょうもきっと伸ばしてくる」。
最終日もひそかに脅威に感じていた。
「この年になって、もう一度勝つことができるのか」。
若手に気おされ、幾度も不安がよぎった3年間。
支えてくれたのは、昨年1月に結婚した妻だった。
「いつも客観的に僕を見て、スウィング面やメンタル面でアドバイスをしてくれてきょう勝てた。感謝の気持ちでいっぱいです」。
初日から首位を走った堀川未来夢(ほりかわ・みくむ)も引っ張ってくれた。
「僕も頑張ろう、と2日目3日目の好プレーにつながったと思うので。仲良くしていてよかったな」と、しみじみ思う。
「堀川未来夢チャンネルをご覧の方は本当に多い。おかげで僕を応援してくださる方も増えたので。少しでも男子ゴルフを盛り上げられるように頑張ります」と、この先もYouTubeの撮影には「無償」で応じるつもりだ。
「飛距離で劣りを感じた分、グリーンを外した時にしっかりパーを獲ろう」と、磨きに注力してきた小技は、7番アイアンのティショットをグリーン左の谷底のラフに落とした16番パー3でも「ロブショットを選択し、ミスを恐れずうまくボギーで切り抜けられた」と、この日も生きた。
初日から強風に対応するうち、持ち球ではなかったフェードボールも自然と上達するなど若さとは引き換えに、得るものも必ずある。
期間中の16日に30歳の誕生日を迎えた前回2021年の「全英オープン」は、決勝に進出して59位の成績を残した。
3年ぶりの3勝目で3年ぶりに出場権をつかんだ今回は、当週に33歳になる。
「最初に経験したときは予選を通れただけだったので。あと50日。全力で準備して、今度は優勝目指して全力で頑張りたい」。
石の上にも3年目。中堅の機は熟した。