Tournament article
マンシングウェアオープンKSBカップ 2001
「この人は、切羽つまらないとやらないから…」
チャンドが優勝カップを誇らしげに掲げるかたわらで、妻の薫さんが言った。
「お国柄(フィジー)なんでしょうか。この人は、本当に切羽つまらないと、やれないタイプみたいですねえ…」
“しょうがない…”といったふうに微笑む表情は、夫への愛情でいっぱいだった。
昨シーズン、チャンドは、あばらに疲労骨折を負う不運に見舞われた。
そのため、シード権の保持も翌年の出場権をかけたファイナルQTにも失敗し、昨年から今季にかけての収入は、ほとんど皆無…。
しかし、そんな夫を責めたてることもなく、ただ穏やかな笑顔で支えつづけた薫さん。
実は本来なら、この先1ヶ月は夫に会えない予定だった。
今大会終了後も、チャンドは、稼ぎ場所を求め、全国各地を日単位で飛び回ることになっていたからだ。
だが、前日3日目。夫から思いがけない電話がかかった。
「トップに立っているんだ。どうしよう…。すごく緊張していて…。うまくプレーできないかもしれない…」
珍しく弱音をはく夫のために、早速、翌朝9時30分の夫のスタート時間に合わせて薫さんは、愛娘の麗美ちゃん、長男・大海(ひろみ)君の手を引き、羽田発7時45分の飛行機に飛び乗った。
18ホール、夫のプレーにつき、みんなで最後の瞬間まで見守って、「怪我のときは苦しんでいましたからね…本当に良かったですよ」と、しみじみ。
もちろん、麗美ちゃん、大海くんも、パパの頼もしい姿に大喜びだったが、ほかにもうひとつ、2人には嬉しい“事件”があった。
「パパはこの大会、2回目の優勝なの。だからまた、ペンギンちゃんが家にたくさん来てくれるのよ!!」(麗美ちゃん)
優勝者へ、記念に贈られる今大会のマスコット・ペンギン。
98年優勝時のことを忘れていなかった麗美ちゃんは、大海ちゃんとともに、再び、1ダースものぬいぐるみを抱きかかえて、大喜び。
パパの周りを元気に跳ねまわる子供たちに、チャンド夫婦は目を細めていた。