KidsGolf

谷口徹がゴルフ伝導師に(7月15日)

あれからもう4年が過ぎたとも言えるし、まだ4年しか、経っていないとも言える。あのとき子どもたちが受けたであろう心の傷を、思わずにはいられないからこそ“ベテラン講師”の気合いが入る。子どもたちが元気で、明るくて、可愛いほどに、47歳の胸はひそかにうずく。

そしてオフに毎年、地元奈良県の児童福祉施設を訪ねて歩くことをライフワークにしている選手が子どもたちとの触れあいの中で、最後につくづくと考えさせられるのは、いつもきまって「勇気と元気をもらうのは、僕のほう」ということなのだ。

2009年からスタートしたプロゴルファーたちの旅。全国の小学校に、ゴルフの楽しさ、奥深さを伝えて歩くゴルフ伝導の活動もこの7月15日の訪問で、41校目を数える。今年は3校目にあたる宮城県の石巻市立中里小学校を訪ねたのは谷口徹。

まずは、子どもたちの礼儀正しさに驚いた。午前のスナッグゴルフの実技講習会で、白井浩・校長先生の号令で、いっせいにピっと背筋を正して「よろしくお願いします!!」。6年生44人の大きな声が揃った気持ち良さ。それも、中里小の4つのスローガンを聞けばどうりで。
「じぶんから」
「続ける」
「チャレンジ」
この3つの柱に加えて「までいに」。東北の方言で、“ゆっくり”とか“丁寧に”とか、“真心をこめて”という意味があるそうだ。
そんな教育方針を掲げる白井校長先生は、谷口のデモンストレーションの前の豪快な素振りに、吹き飛ばされるフリをしたりして、懸命に子どもたちの笑いを取ろうとするユーモアたっぷりのお人柄。一本ピンと筋の通った規律の中でも伸びやかに、日々すくすくと健やかな、子どもたちの日頃の学校生活は、想像するに難くなかった。

谷口がふとつぶやく。「うちの子どもより、みんな素直でかわエエ(可愛い)わ」。2人のおしゃまな我が娘を、この日の子どもたちと重ねて「いや、でもこの子たちも、家に帰ったらわからんのかなあ・・・」と、そんな想像も、自身も二児の父にはまた楽しい。

フルショットを披露してみせて、「すげ〜」「すげ〜」と、大喝采を浴びてご満悦。学校随一のスポーツウーマン、担任の遠藤範子先生の豪快なナイスショットも「ゴリラみたい」と、子どもたちの素直(?!)で遠慮のない感想には「・・・こらあっ!」。乙女に対して、それは言い過ぎ!

大笑いの中で、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。子どもたちとのガチンコ対決では、いきなり“ホールインワン”を狙う大人げなさも、結局その甲斐もなく、代表児童の渚さんに4対2であっけなく負けて、プロも形無し。みんなでお腹ぺこぺこで頂いたこの日の給食の、まあ美味しかったこと。今までにも、何度か経験してきた小学校訪問の中でも、こんなメニューは初めてだ。焼きそばと、切り込みの入ったコッペパン。

「これは、もしや・・・」。お隣の女の子に見本を見せてもらって、やっぱりな!!
子どもたちと仲良く一緒にほおばった。手作りの焼きそばパン。この味わい深さも、きっとずっと忘れない。

この日、校門をくぐる前。石巻市教育委員会学校安全推進課指導主事の村岡太さんの案内で、市内を一望できる日和山公園を訪れた。眼下に広がる石巻漁港もあの日、大津波にのまれた。震災前と、直後と今の漁港の写真を見せてくれながら、村岡さんは静かに言った。
「今も、行方不明者の捜索は続いています」。
沈痛な表情で、でも谷口にはただ黙って聞くしかなかった。

午後から「夢を持とう」の講演会で、谷口は自分の生い立ちからこれまでを、いちから語る中で、ずっと考えていたことがある。「あの大震災を経験しても、いまはとっても元気にしているみんな」。元気と勇気を届けに来たのは自分のほうなのに、今回もまた逆に元気と勇気をもらって送り出された。

「この子たちに、何か自信をつけさせてあげたい」。スナッグゴルフの講習会でも、講演会のあとのサイン会でも、子どもたちが語る夢と言葉に笑顔で大きくうなずいたり、惜しみのない褒め言葉を浴びせたり。
「今日、僕に教えてもらったり、褒めてもらったりしたことが、自信になればと思った。どんな小さなことでもいいから一杯褒めてあげようと思った。自分に自信を持つことは大事だから」と、子どもたちのこれからの健やかな成長を願わずにはいられなかった。
あらかじめ打ち合わせで聞いていた、この日の行事予定も無事すべて終わって、サヨナラを言おうとしたら「ちょ〜っと待った!」。男子児童にユーモアたっぷりに呼び止められた。子どもたちの“までい魂”が一杯詰まった贈り物。サプライズの大合唱は「♪君に会えてよかった」。胸に染む歌声。ベテランのつぶらな瞳にみるみる涙がたまった。
  • この日、小学校を訪れる前に谷口は、復興途上の市内の様子を目の当たりにしていた。