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マンダムルシードよみうりオープン 2006

増田伸洋「父の日に、良いお返しが出来た」

18番ホールでウィニングパットを決めたときから、ずっと笑ってばかりいた。仲間のどんなに手荒い祝福にも、満面の笑みで返した。
「・・・いまは何をされても平気。だって、嬉しくてたまらないんですもん!」。
初めての優勝インタビューも、もちろん笑顔で。

最後まで、そのまま通せるはずだった。
しかし、「この優勝を伝えたい人は誰か」と問われた瞬間、増田の顔から笑顔が消えた。

この人の存在を、思い出さずにはいられなかった。
増田一仁さん。
小学5年のとき、母・八千代さんが亡くなってから、兄と2人兄弟を男手ひとつで育ててくれた父。

そんな背中を見てきたからかもしれない。
高校時代、ラグビー部のフルバッグで活躍し、卒業時に6つの大学から誘いを受けながら、すべて蹴ってプロゴルファーの道を選んだ。
それまでは、「ゴルフの“ゴ”の字もなかったのに」。
見様見真似でクラブを握ったのは、父の力になりたかったからだ。

そのころ、父が経営する双伸ゴルフセンター(千葉県柏市)の常連客から、「練習場にプロがいないのはおかしい」との声が出ていた。
「じゃあ、俺がなるよ」と、迷わず答えていた。

練習場の名前には、兄弟2人の頭文字を取ってある。
あまり多くを語らないが、無償の愛情を注いでくれた父。
どんな道を選ぼうと、いつも息子たちの好きにさせてくれた。
「オヤジのおかげで、ここまでやってこられた。父の日に、良いお返しができたと思う」。
胸に溢れ出たのは感謝の気持ち。
こらえきれずに、増田は泣いた。
「今日はオヤジに、ウィニングボールをプレゼントしよう」と、心に決めながら。

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