記事
HEIWA・PGM CHAMPIONSHIP in 霞ヶ浦 2014
近藤共弘が3年半ぶりのツアー通算6勝目【インタビュー動画】
2打差の最終日は、自分自身の欲との戦い。「見ない、見ないと思っていても、ちらっと見るクセが前から僕にはあったというか」というのは、V争いの際に、スコアボードを見るか、見ないでやるかという話。「見ないようにしていても、僕は見ちゃうタイプというか」と欲に負け、いつものようについチラ見をしてしまいそうになるのを、今回はじっと我慢したのは「余計な情報を入れて、自分のゴルフが変わってしまうのが、イヤだったから」。
春先からスイングの試行錯誤を続けてきてようやく、自分が目指す理想のショットが完成しつつあるいま、相手のスコアを意識したり、V争いで頭がいっぱいになることで、せっかく掴んだ手応えを見失うのも嫌だった。
「でも、どうしても、ボードが見えてしまうホールがいくつかある。9番のグリーン奥とか。だからあえて下を向いて、うつむいて歩いた」。ひたすら、目の前の1打に徹して歩いた。
昨秋に、少しでも飛距離を伸ばしたくて、45.75インチにしたドライバー。「長くして、振り遅れて右に行く。短いのを持てば、今よりも方向性が安定するとは思うけれども」。分かっちゃいても、多少ボールが散っても、たった1インチの差で15ヤードも飛距離が伸びたと実感できれば「世界が全然違う」と、頑固にこの日もドライバーを握った5ホールでは多少曲がった分も、それがこの選手のウリでもある切れ味鋭いアイアンショットと好調のパットで補った。
7番でこの日2つめのボギーで、一度は谷原に並ばれても、ひたすらスコアボードから、目をそらし続けて戦況を知らないから「相手というより自分に苦しくはなったけど。変な焦りはなかった」と冷静に、次の8番から連続バーディで再び突き放した。
15番のパー3は5番アイアンを握り、左からのアゲンストの風に向かって「あそこしかないというショット。持ち球のドローで技術としても、かなり良いショットが打てた」とピン4メートルにつけた。
17番は、ピンまで180ヤードの池越えの2打目も「前下がりという厳しい状況で、しっかりとパーが拾えた」。そこでこの日初めて、スコアボードを確認した。「4打差もつけていたんだ」と分かっても、最後まで自分のゴルフを貫いた。
「今日は20アンダーが目標だった」と、最後のパー5も果敢に251ヤードの2打目もユーティリティで、迷わずにピンを狙った。左5メートルのイーグルトライは惜しくも外したが、「今日は目標にも到達できたし、自分のやりたいゴルフが出来て、手応えを感じての優勝も、今までとは少し違う」。
もがきにもがいて掴んだツアー6勝目には「自分が以前よりは上手くなっているのを感じられたし、自信がついた」と我ながら、ひと皮むけた感触がある。
いつもスタイリッシュなゴルフウェアに細身の体を包んでいつまでも、若く見えるが「僕ももう、37歳」。この日、最終組で回った藤本などは「ひと回りも年下で」。勝てなかったこの3年半の間に、ツアーはあっという間に若返り、いつの間にかベテランと呼ばれる年齢にさしかかっていた。
石川や松山は米ツアーで活躍するなど「若い選手がもの凄い頑張っているけど、正直僕は、痛いところが出てきたり、少しずつ年齢を感じている」。
2000年のデビュー当時は共に並び称された同学年の星野英正や矢野東もまた同様に、勝ち星から遠ざかってから長く、あの頃はあんなにも互いを意識しあったライバルたちも、世代交代の波にのまれて「2人もきっとそうだと思うが、今はみんな自分のことで一杯一杯。構ってらんないのよ。人のことを、気にしてらんないのよ」と、みな生き残ることに懸命で、もはや互いに目をくれる余裕も無くした。
時代は巡りに、イキのいい若手が次々と台頭して、年々ますます入れ替わりが激しくなる中でも近藤が、一縷の希望を失わずにいられるのは高校時代の後輩の活躍であり、40歳を過ぎてもなお輝きを増していく、大学の先輩の存在である。
目下賞金1位の孔明は東京学館浦安高の1年下で、「技術の高さもそうですけど、あの気持ちの強さには、見習いたいものがある」。また専修大では8つ上の藤田に刺激を受けて、近藤もこの春から週3でトレーニングを始めた。「他のみんなも思っていることだと思うが、藤田さんの凄さは技術も体力も、今もまだまだ伸びているところ。僕も藤田さんを目指したい」と不惑を目前に、さらなる努力を誓った。
この1勝で、賞金ランクは孔明と藤田に次ぐ3位に浮上。しかし「賞金王というのは意識にはないし、今日勝ったからってまたもう1勝という気持ちにもなれない」という近藤だ。「でも、あと残り4試合でどれだけ自分が良いゴルフができるかは、楽しみ。その中で、結果を出していければいい」。熾烈な賞金レースには目もくれずに今はただ、ひたすら謙虚に自分との闘いに徹するつもりだ。