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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2003

東京よみうりの18番グリーンで交わされた平塚哲二、親子の約束

今年、平塚には、なんとしても勝っておきたい理由があった。2月のことだ。たまたま実家に帰っていた平塚の目の前で、66歳になる父・央(ひろし)さんが、突然、倒れた。かなり危険な状態で駆け込んだ病院で、肝臓に深刻な病状があることがわかった。きゅうきょ手術を受けて無事回復したものの「また、いつ倒れるかもわからない」と、遠征中も気になって仕方なかったという。連戦でなかなか自宅に帰れないときは、毎日必ず実家に電話を入れた。合間のオフには、できるだけ実家に顔を出し、父親を見舞った。

退院したもののすっかりやせ細ってしまった体で、央さんがひょっこりと応援にきてくれることがあったがやはり気が気ではなく、ロープの外を歩く父の姿を1ホールごと確認しながらのプレーになったものだ。

この日最終日もそうだった。ゴルフに集中しながらも、目は、父親の姿を探していた。

そして、大ギャラリーにまじって父の声援が聞こえてくるたびに、この思いを強くした。

「親父のためにも、絶対に勝つ。今年中に1勝する・・・!!」。

とうとう願いをかなえた東京よみうりの18番グリーンで、節くれだった父親の手を握りしめた。10歳のとき、平塚をゴルフの道へと誘ってくれたその手。確かなぬくもりを感じたとき、優勝の瞬間とはまた別の新しい涙が、平塚の頬を濡らしていた。

めきめきと腕をあげ、「プロになる」と告げたときは、央さんも、そして本人さえも、こんな日が訪れるとは、想像もつかなかった。

「信じられないね」と言って、泣き笑いで見詰め合った2人。

「こんなプレーをずっとずっと続けて、もっともっと強い選手になってくれ」(央さん)。

「日本ではなく、海外も視野に入れながら、長くトップで活躍できる選手でありたい」(平塚)。

またひとつ、新しい親子の約束が交わされた。

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