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日本ゴルフツアー選手権宍戸ヒルズカップ 2003
『サイモンの、ありがたみがわかったよ!』首位発進の2001年大会チャンピオン、宮本勝昌
いつもの明るい笑顔で冗談めかして話した宮本だったが、内心は、泣く思いだった。
今年、開幕からこれまで味わったこともないほどの絶不調に見舞われている。出場10戦中、予選通過はわずかに3回。サイモンさんの給料はおろか、自身の遠征費さえ捻出できない状況に、「彼には子供が3人もいる。生活もあることだし・・・」長年の相棒に“出稼ぎ”をすすめるしかなかったのだった。
今年、不調の要因は主にアプローチとパッティングだ。もともと、それらが苦手の宮本だが、今季はいっそう、両者が噛み合わない。
「いつもは、“アプローチで寄らずパターで入る”というパターンで、なんとかスコアをもたせているのですが、今年はどうも“寄らず入らず”の傾向が強く・・・」特にアプローチは、球が思うように捉えられず、「“ドシャ”“ザクッ”というような変な音ばっかりがする」という。
師匠の芹澤信雄の指導のもと打開策を模索して、たまに「これだ!」とひらめいても、翌朝には良いフィーリングが跡形もなく消えて、また、迷路にはまり込んでしまう。その繰り返し。「ずっと、アマチュアみたいなことで、苦しんできました」と苦笑い。
しかし、努力の甲斐はあった。「この難しいコースでノーボギー」。ピンチの連続も11番パー4でティショット左ラフから、セカンドショット右ラフと渡り歩いて、残り85ヤードの第3打を1メートルに寄せてパーをひらうなど、しぶとさが出てきた。
2番パー5では、残り173ヤードの第2打を6アイアンで5メートルにつけてイーグルパットを沈めるなど、“らしさ”もよみがえってきた。
今週、実に「6年ぶり」というハウスキャディさんを起用しての、この日初日のラウンドは、5アンダー首位タイスタート。
ホールアウト後、今週は谷原秀人のバッグを担ぐサイモンさんと、パッティンググリーンでぱったり出会った。
思わず駆けより宮本は言った。
「サイモンのありがたみが分かったよ!」
クラブの番手選び、グリーン上、風の読み・・・もちろん最終的には、すべてプレーヤー自身が決定するのは大前提だが、それでもサイモンさんとの共同作業ではその負担が減り「かなり、楽をさせてもらってきたと思う。今日は、“ここでサイモンは、何番を持てっていうかなあ”って、何度も想像したよ!」。
もちろん、会場の宍戸ヒルズCCを知り尽くしているベテランキャディさんも心強い。しかし、宮本自身の飛距離やクセまでは、把握しきれない。ピンまでの距離の歩測も、いつもならサイモンさんに任せっきりのところを、今回はすべて自分で行わなくてはならない
「久しぶりで大変だったけど、それでもなにか初心に帰ったようで新鮮でした。一時的とはいえ、サイモンと離れて、逆に気持ちの引き締まったゴルフができたような気がします」としみじみ話した宮本。このままトップを走りつづけて今大会2勝目をあげ、改めて、“恩人”を取り戻したい。
写真=“出稼ぎ中”のサイモンさん(左)は、今週は谷原秀人(右)のキャディ。前のボス、宮本の好スタートには、「良かったね!」とほんとうにうれしそうだった。