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ANAオープンゴルフトーナメント 2024

逆境を経験した直後の岩﨑亜久竜は強い。キャディの湯本が証明する

逆境を経験した直後の岩﨑亜久竜(いわさき・あぐり)は強い。
50回大会の輪厚で改めてそれを証明した。



3打差の3位タイから出た最終日は、2番でダブルボギーを打ってもくじけなかった。
5番と7番、9番、11番のバーディで這い上がると12番では255ヤードの2打目を5Wで右奥7メートルに乗せたイーグルトライも沈めた。

逆転に成功したが、2打差で入った最後18番でまた窮地を迎えた。
「バーディなら確実に優勝」と、力んだティショットをみごとに「チーピン」。
左の林の中に入れた。

208ヤード先のグリーンは木と木の隙間にわずかに見えるだけ、という絶体絶命の場面で、岩﨑はなぜか笑った。
笑いながら、5アイアンを持ち「練習場でやった低いドローがイメージどおり打てました」と、グリーン手前のラフに運んで1パットのパーセーブ。

「楽しいね、と言ってました」と、キャディの湯本開史が明かす。



初優勝を飾った昨年の「日本オープン」でも「優勝争いって楽しいね」と言いながら、最後18番で右の林の中からグリーンを捉えて、石川遼を2打差で下したそうだ。

当時は、前年賞金3位の資格で欧州・DPワールドツアーを転戦したが、手も足も出ずに戻った直後。
傷心を国内メジャー制覇で払拭している。

今年はその「日本オープン」のV資格で7月の「全英オープン」に臨んだが、2日目に91を叩いて最下位で予選敗退。
「決勝に進んで上のほうで戦いたい、という気持ちが本人も強かったので。悔しかったと思う」と、キャディの湯本。

「でも中途半端に通るより、恥をかくくらいのスコアで落ちてしまったほうが、彼は絶対強くなる」と、にらんでいたとおりに、黒宮コーチと取り組んだ帰国後の練習量は、小5から岩﨑を知る同い年の湯本も目を剥くほど。

「こんなに練習するのだから、また必ず立ち直る」と、湯本も信じて疑わなかった“大バウンスバック”は輪厚で達成された。



今年50回を迎えた「ANAオープン」は21年大会で、岩﨑は予選会を突破してデビュー戦を飾った試合だが、1打足りずに予選敗退しており、開幕前に岩﨑が掲げた「悔しかった思い出をリベンジ」というテーマは、3年前の本大会での悔しさを表現したものだったが、「全英オープン」での悔恨も原動力のひとつになっているのは確かだ。

「30年も破られていない記録。20アンダーまで行けば絶対勝てる」と、ラウンド中に湯本と誓いあったとおりに、94年大会で尾崎将司が達成した大会最多アンダー記録に並んで優勝を飾った。

「日本を代表する偉大なプレーヤーの記録に並べて夢のようです」と、岩﨑は感激していた。



50回記念で、今年の賞金総額は5000万円増、優勝賞金も1000万円増の3000万円を手にしてランク9位に浮上。
「最後まで賞金王争いを楽しめる位置までいきたい」と、目標を掲げる。

数々の豪華なV副賞の中でも「ANA国際線ファーストクラス ペア往復航空券」では特に目が輝いた。
PGAツアーの予選会挑戦は今年、湯本と約束していた目標のひとつだったが「航空券がすごい高いし、今までビジネスクラスしか乗ったことがない。トレーナーさんも連れて万全の態勢で行きたい」と岩﨑は、表彰式の授賞式で湯本らのほうにちらちら目をやりニコニコしていた。



湯本も18年転向のプロゴルファーだが、「今は彼を支えて、2人でPGAツアーで勝つのが夢」と、語る。
「いつも本当に彼が一生懸命だから、応援したくなるんです」と、献身をささげる。

湯本は、今年の「全英オープン」を最下位で去る帰り際、2日で役目を終えてしまった大会ロゴ入りのコースメモホルダーを岩﨑から譲り受けている。

キャディにとっても屈辱の記憶がよみがえる“記念品”を、湯本は今もあえて使い続ける。




    「これを見るたびに、自分もいい加減なジャッジはできないと思うから」。
    岩﨑に二度とあんな思いをさせない。

    戒めのお守りだ。

    「今週、勝ちましたけど、全英オープンのリベンジは、全英オープンでしかできません。いつか彼と(今年の会場の)トゥルーンでリベンジするのが目標です」。
    逆境を経験したプロキャディもまた逞しい。

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