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ジョージア東海クラシック 2003

川原希のプロ10年目の初優勝が、家族の絆をいっそう深める

この初優勝こそが、最愛の息子へのメッセージ。「佑介、パパ勝ったんだよ !」
10年のプロ人生、初めて手にした優勝カップを掲げた瞬間、プレー中はあえて考えな いようにしていた 息子のことが、頭をよぎった。「・・・このカップは、佑介を抱っこしたときよりも、うんと重いな・・・」。
2歳と10ヶ月になる長男、佑介ちゃんは、知的障害を抱えている。今年1月、医師の診断ではじめてそれがわかった。

川原がツアーの出場権さえ持たなかった時代は、キャディ業で稼いでアジアンツアー への遠征費用をまかなってくれるなど、芯から支えてくれた妻・和子さんは、いま は、佑介ちゃんにつきっきりで世話をする毎日だ。

独りぼっちになることを極端に嫌う佑介ちゃんは、和子さんが数分でも自分のそばか らいなくなると、 パニックに陥ってしまう。先日は、たまたま姿の見えなくなった和子さんを追って階 段から転げ落ち、歯を4本も折ってしまった。片時も、目が離せないのだ。

息子のことが心配で、とりあえずこのジョージア東海クラシックは欠場しよう、とま で思いつめていた川原だった。

「でも、ずっとつきっきり、というわけにも行かないですからね・・・」。思いを振り 切って、会場入りしたのだった。

障害が分かったとき、和子さんはショックを受けてしばらくは泣きどおしだった。あ まりにも泣き言ば かり言う妻に業を煮やしてとうとう言い争いになり、しょっちゅうケンカばか りしていた時期も あったという。
それでも、ようやく状況を受け入れられるようになった和子さんは、夏ごろから佑介 ちゃんを連れて会場にも顔を見せるようになっていた。そのとき、しみじみと和子さんは言ったものだ。

「パパはきっといま、ゴルフどころの心境じゃないと思うんです。それでも佑介のた め、私のために一 生懸命、頑張ってくれている。そう思うと私も頑張らないと、って思うんですよ」。
これから先も、佑介ちゃんが言葉を話せるようになる見込みはない、と川原は言う。 いまはまだ“父親 ”が誰かも判別できない状態だそうだ。

それでも、川原は佑介ちゃんがかわいくて仕方ない。

こないだ、携帯を動画メール付きのものに変えた。遠征中は、画面上で顔を見ながら 佑介ちゃんに話しかけるのが最近の日課だ。「女房もそれこそ毎日、僕のゴルフの成績どころじゃないくらいストレスをためなが ら努力してくれているし、この優勝で今までより半分くらいは気持ちが楽になるん じゃないかなぁ・・・」。このプロ10年目の初優勝が、家族の絆をいっそう深めくれるはず、と川原は信じてい る。

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