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バナH杯KBCオーガスタ 2008
秋葉真一「何しろ、ノミの心臓なんで・・・」
今週の練習日だ。
メーカーが、サンプル用に練習グリーンに並べていたパターのうちの1本に目がとまった。
10数年前に愛用していたL字型のそれは、いまやツアーで唯一となった、芥屋ゴルフ倶楽部の高麗グリーンでも、スムーズに転がってくれるような予感がした。
しかし、あいにくメーカーのスタッフがどこにもいない。
仕方なく、自分の名前と電話番号と「今週、借ります」とのメモ書きをその場に残して立ち去った。
そのあとも、スタッフとは連絡が取れていない。
「・・・やばいですね」。
人一倍シャイな性格で、本人も「苦手」と言ってはばからない記者会見の席上で、そう言って控えめに笑ったが、この3日間の成績が、何よりの伝言になっているはずだ。
悪天候と、例年より難解なグリーンの影響で、今年の大会はいつものバーディ合戦は陰をひそめ、我慢比べの様相を呈している。
「僕は、伸びない展開のほうが向いてるんで」と言うとおり、70、70、70と毎日確実にスコアを積み上げて、通算6アンダーはもちろん、無断で借りたパターのおかげだ。
最終日を1打差の2位で迎えるにつけ、うらやましいのは兄貴分と慕う佐々木久行の強心臓ぶり。
2人の出会いは、秋葉が二十歳までさかのぼる。入団したばかりの実業団野球チームが、直後に倒産。一念発起でプロの道を目指し、はじめに門を叩いたコースにすでに佐々木がいた。
以来、師匠の河野光隆を挟み、ともに練習を積んできたひとつ上の先輩は、「ひとたび上に立つと、絶対に崩れないから」。
一度でいいから、そんな選手になってみたいと心から思う。
秋葉曰く「僕はノミの心臓だから」。
この日もプレッシャーを恐れ、ラウンド中はいっさいスコアボードを見なかった。
だから順位は、アテストを終えてようやく知ったくらいだ。
「見ちゃうとほんとにドキドキしちゃうから・・・」。
43歳はそう言ってハニかむが、ここで手をこまねいているわけにはいかない。
2005年に初シード入りを果たしたものの昨年、転落。
ファイナルQTランク3位の資格で参戦する今年は、是が非でも取り返したい。
「ここで決めたい」。
ツアー初優勝ならば、文句なしのシード復活だ。
「・・・もちろん、勝ちたいです」。
そう控えめに言ったそばから「弱気のムシが・・・」と苦笑した。
これまでにも最終日最終組の経験は何度かあるが、やはり今回も緊張は避けられないだろう。
「明日も絶対ドキドキしちゃうけど・・・。他の選手もみんな緊張しているんだ、と思うようにします。・・・いや、そう思わなくちゃ、やってられない!」。
小さな悲鳴にも似た声で気合いを入れた。