Tournament article
ANAオープン 2010
池田勇太が今季2勝目
思いがけず、頬をつたった。
「勝って泣くのはこれが初めてです」と涙声で、いつになくしおらしく俯(うつむ)く。
勝負は、最終ホールまでもつれ込む大接戦。薄氷を踏む思いで勝ち取ったツアー通算6勝目は、「プロになったからには一度は勝ちたい」と、思い焦がれていた難関、輪厚で掴んだ栄冠だ。
「もしかしたら、この6勝の中で一番嬉しいかもしれない」。
幼いころから、尊敬してやまないあのジャンボ尾崎が最多の7勝を誇るのが、この大会。まして、ジャンボのもっとも新しい勝ち星である、ツアー通算94勝目が、2002年の今大会であることも、継承者の第一候補としては、また格別な思いがする。
あれは16歳の秋。自宅のテレビで見たあの優勝シーンは今でもはっきりと覚えている。
「ジャンボさんが得意とするコースでもあり、ここを一度は制さないと、プロの仲間入りをした気分がしないと思っていた。そういう意味でも、今日はよく頑張った、と自分を褒めたいと思います」と、湿った声で喜びを噛みしめた。
2打差の単独首位からスタートした最終日は前週に池田を始め、10人の日本代表メンバーが勝利を持ち帰った韓日対抗戦の恨みを晴らさんかのような、韓国勢の包囲網に苦しめられた。
特に同じ最終組でまわったJ・チョイは、振り払っても振り払っても、ついてくる。
前日3日目にも「優勝争いを、楽しめればいいんじゃない?」と話していたように、8番でこともなげにチップインバーディを決めるなど前半は余裕の雰囲気も、しかし後半の攻防戦にはさすがの池田も顔色が怪しくなった。
バックナインはフェアウェイをひとつも外さなかった。にもかかわらず、チャンスパットが決まらない。「傾斜と、目と特有の芝質と。輪厚のグリーンの難しさ」。17番パー5では、せっかくのイーグルトライも寄せきれない。4メートルのバーディパットも外して、再びチョイに1打差に迫られた。
迎えた最終18番は、上の段から10メートルのバーディパット。
「もう、ピンチですよ。あそこからは、寄らないですもん。ましてやね、チョイ選手がピン横2メートルにつけていたので、最後は入れなきゃいけないプレッシャーもありましたから」と、相変わらず涙ながらにその心境を語ったあとで、やっぱりいつもの勇太節も忘れない。
「あれをギャラリーのみなさんが打ったら、グリーンを出ちゃうんじゃないかと思うけど」と、最後はやんちゃ坊主のあの笑みで、「ようあそこに止められた。よう2つで決められた」と、自画自賛。
6勝のうち、2勝が道内の大会という相性の良さには「北海道が大好きです!」。声を張り上げアピールした。「冬は非常に寒いけど、北海道の人の心は温かい。来年もまた勝てるよう、日々精進して戻ってきます」。がっちりと、地元ファンの心をつかんで約束した。
先のフジサンケイクラシックで今季2勝目を挙げた石川遼に遅れをとらず、今年2人目の2勝目に賞金2200万円を上乗せて、賞金ランキングも5位に浮上。トップの石川にも約1200万円差まで迫り、賞金レースは今年もここにきて、一気に面白くなってきた。
昨年はシーズン終盤に怪我に泣かされたことも手伝って、石川に譲った賞金王。だが今年は、福田努トレーナーの献身的なケアのおかげで国内外を合わせて、これまですでに22試合に出場も、どこにも痛みは感じない。
「今年は、このまま怪我とは無縁で行けるのではないか」という確信が、池田の口を滑らかにした。
「まだまだ、これからが稼ぎどき。みなさんの期待に応える男ですから」と、言ったころには頬の涙もすっかり乾き、腰に手を当て仁王立ち。「この先がまた楽しみになってきた」と、最後はやっぱり剛胆な、若大将の顔になった。