Tournament article
VanaH杯KBCオーガスタゴルフトーナメント 2012
金亨成(キムヒョンソン)がツアー初V
一時は3打差の独走も、後半は伸び悩んで貞方章男との一騎打ち。
13番で並ばれた。それでも粘って相手のミスを誘った。1打リードで迎えた18番は、大どんでん返しもあるパー5。
「プレッシャーがあった」。だがそれも、すぐ消えた。貞方がセカンドを右の林に打ち込んで、ひそかに胸をなで下ろした。
「もう大丈夫」。タップインのウィニングパットを流し込み、仲間が浴びせた「VanaH」の水シャワー。「ハンパじゃない。ちょー気持ちいい!」。喜びの水しぶきを飛ばした。
2008年のQT受験から数えて、来日5年目。デビューの2009年はミズノオープンよみうりクラシックで石川遼と争って、3位につけた。端正な笑顔でファンのハートをつかんだ。精度の高いショットに、初Vもすぐと言われた。しかし、翌年から苦しい2年を過ごした。
「日本に来て驚いたのは、みなすごくトレーニングをすること」。
特に片山晋呉には、度肝を抜いた。「自分も」と躍起になった。「やり過ぎて左肩を壊した」。クラブもろくに振れずに、トレードマークの笑顔も消えた。
「あのときは本当につらかったので。その分、いまは楽しくゴルフがしたい。結果はそのあとの問題です」と、懸命の治療で困難を乗り越えてきた選手は心も強い。
このオフは、技も磨いた。アメリカに渡り、ブッチ・ハーモンのゴルフスクールに通って、特に「飛距離がハンパない」。20ヤードも伸びて「自分でもたまにびっくりする」というほどだ。精度を増したショットは、2打目以降に選ぶクラブが1番手あがった。
気持ちと、ゴルフにも余裕が出来て、今季はセガサミーカップと先週の関西オープンでも2位につけ、キャディの岡本史朗さんと足並み揃えて2週連続で、笑顔の絶えないV争い。
すでに二児の父親は「よく、キム・レウォンに似ていると言われます」。確かに笑うと、ますます韓流スターに似ている。いつも愛想の良いニコニコ顔は、日本人選手の友達も多い。
「誰が教えてくれたんだっけ?」。そこは忘れてしまったが、表彰式でも優勝会見でも再三、チャンピオンの口から出た日本語が「ハンパない」。
近頃の日本の若者がよく使う。たまに日本語に詰まっても、笑顔でそう言えば、相手も笑う。その場が和む。心をつなぐ。「大好きな言葉なんです」。徐々にツアーでも評判になり、あのジャンボ尾崎でさえ金の顔を見れば「ハンパない」。
そういって話しかけてくれるほどになった。雰囲気にもすっかり馴染んでいつでもリラックスして試合に挑めるようになった。
「最近はもっと悪い日本語も覚えましたよ。酔っ払えば、もっとペラペラ」と、屈託なく笑う。
2008年の韓国ツアーで3勝目を上げて、賞金ランクは2位に。それを自信に日本にやって来たものの、怪我もあってなかなか勝てない。K・J・チョイや、Y・E・ヤン。尊敬する母国の先輩は、今や米ツアーのスター選手たちが、金にもこぞって来日を勧めた理由が分かった。
「韓国ツアーより、コースは難しいし選手のレベルもうんと上」。経験を積むにはこれ以上ない舞台。日本ツアーでやっと悲願の初優勝を達成して、次の目標も定まった。
「今年は、アメリカに挑戦します」。
昨年覇者で賞金王の裵相文(ベサンムン)もこの大会で初優勝を飾り、世界へと羽ばたいた。6つ下の後輩に続いて「僕も行きます」。
32歳の強い気持ちもハンパない。