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日本プロゴルフ選手権大会 日清カップヌードル杯 2013
2013年のプロ日本一は金亨成(キムヒョンソン)【インタビュー動画】
3番は7メートルの下りのスライスラインが決まった。4番では、1.5メートルのチャンスも逃さない。5番もまた7メートルの上りのスライスラインが決まって、7番ではなんと10メートルものフックラインだ。8番でもこれでもかと容赦なく、7メートルのフックラインがカップに消えると、もはや笑いも止まらなくなった。
いま、ドライバーショットに不安を抱えていて、「練習場ではプロみたい。でもコースに出るとアマチュアです」。それだけに、なおさら最終日は「今日は勝とうなんて思ってもいない」。当然だ。スタート時のスコアもほど遠い、通算1オーバー。
リーダーとは最初9打差もあった。スタートの1番では、後輩のS・J・パクがあわや遅刻のハプニング。練習に夢中になって、時間を忘れていたらしい。慌てて駆け込むなり、ティオフになった。なかなかティーグラウンドに来なかった時は、金もとても心配したが「ゼー、ゼー」と言いながらティショットを打つ後輩を見ていたら、なんだか可笑しくなってきた。
大笑いしながら出ていった。「武藤プロとも仲良しだから」。3人リラックスしたムードの中で、気楽にやるうちに、バーディが止まらなくなった。
4連続バーディを奪った金。対して、4連続ボギーを打った。対照的に、前半の9ホールでボギーが止まらなくなった松山英樹。まだ彼がアマチュアだった昨年の日本オープンで、最終日に2サムで回った。「ゴルフが上手くて、すごく飛ぶけど気持ちは凄く優しくて。とても良い子で」。この日も、会場にいるだれもが松山のデビュー4戦目の最速メジャーVを望んでいたことは、金も知っている。金自身だって「彼に勝とうなんて、思っていない」。だが気がついたら、立場が逆転していた。ショットの不振を絶好調のパットで補い、前半29で回った金が、パットの不振で39を叩いた松山と、完全に入れ替わった。
「自分がかなり良い位置にいることは、周りの空気でなんとなく分かった」。しかし、あえてリーダーボードは見なかった。先週は、韓国ツアーのメキョンオープンで、悔しい思いをしたばかりだ。母国では、「韓国のマスターズ」とも評されるという“メジャー大会”には、のべ4万人ものギャラリーが駆けつけた。
韓国で「一番のイケメンプロゴルファーは」と尋ねたら、必ず名前が挙がる人気者は大変な声援を受けて頑張ったが、1打差に敗れて2位に終わった。「自分の順位を確認しながらやったら、緊張してしまったんです」。だからこの日は、徹底して見なかった。
ようやく、自分が首位に立っているのを知ったのは、最終ホールの18番グリーンだ。グリーンサイドの大きな電光掲示板は、嫌でも目に飛び込んできて、案の定プレッシャーが押し寄せた。そのせいで、最後のバーディチャンスは逃したが、とにかく先に通算5アンダーで、松山より1時間半も前に上がった。「プレーオフは大嫌い」。まして、いまもっとも強いルーキーを相手に戦うのは、正直言って嫌だった。岡本キャディと一応は練習場に向かったが、あまり気も入らず「ドキドキ」しながら最終組の結果を待った。
思いがけず、転がり込んだ日本タイトル。9打差は、1973年のツアー制度施行後としては、最多差タイ記録での逆転Vだ。日本でツアー初優勝を飾った昨年8月の「VanaH杯KBCオーガスタゴルフ」はあまりの喜びに、その晩も思い出してはうれし涙で枕を濡らした感激屋。
それも、2勝目ともあらば手慣れたもの?!
自信満々で臨んだ日本語でのスピーチは、「ニホンがダイスキだから」と、最初のうちは調子も良かったのだが、いざマイクを握ればやっぱり緊張もあって、最後は何度も言葉に詰まるし、上手く気持ちを表現出来ないし・・・。
そうだ、困ったときは、このフレーズ。
いまも変わらず一番好きな日本語は、ヒョンソン・ファンなら誰でもご存じ。「ハンパない!」。誰もが笑顔になる魔法の言葉。でも、今回は言葉が上手くない分、会話をごまかす為に使っているところも半分。今年から正式契約を結ぶ飯田光輝トレーナーと、グリーンサイドで見守っていた岡本キャディが、半分呆れたようにつぶやく。
「もうちょっと、日本語を勉強してもらわないといけないなあ・・・」。将来の目標は米ツアーの参戦だが、「ニホンツアーもダイスキだから」。これからは、こういうシーンもますます増えるだろうから、岡本さんのアドバイスももっともだ。