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カシオワールドオープン 2016
賞金レースと賞金シード、池田と正岡。最終日も2つのシビアな戦いが交錯するV争い
賞金レースを争う2つ下の後輩と、賞金シードを争う2つ上の先輩の最終組でのV争いはこの日も2つ下の後輩が、2つ上の先輩を引っ張った。
池田が1打リードで上がって、公約どおりに今度は最終日最終組で、正岡と再び相まみえることになった。
「今日は竜さんと一緒にいい争いが出来たと思う」と満足そうな池田。
感謝の正岡。
「いつも一緒に練習をさせていただいている勇太と今日は気楽な気持ちでやらせていただいて、上がってみたら、こんな良いスコア。勇太の“頑張れ”のオーラを感じながらやれた」。
特に2つ上の先輩の、16番からの3連続バーディには、2つ下の後輩もエビス顔だ。
まして17番では池田の目の前で、正岡が7メートルを沈めて「あれは、竜さんを褒めるべきだと思います」と、自身は2.5メートルのパーパットを残していた池田は感心しきりで「よう入れた。俺も気合いが入った」。
互いに、互いを思いやりながらのラウンドだった。
上がってすぐに、1位と2位の選手が共に席を並べて応える、きわめて前代未聞の記者会見で明かされた。
3週前の風邪が治っていない正岡。いつもは毎晩一緒の夕食も「勇太にうつしちゃ大変」と、今週は遠慮して「賞金王がかっている。集中してもらえるように。今日も邪魔しちゃいけない」と、偉大な2つ下の後輩に、正岡はかなり気を遣っていたつもりだが、池田の2つ上の先輩を思う気持ちはそれ以上だった。
目下賞金ランク88位につける正岡は、第二枠さえまだシードの当確圏外で、「竜さんは、俺と違って養うべき家族がいる。お父さんとしての役目もある。気楽にやらせすぎてもだめだし、緊張させすぎてもだめ。上手くスコアにつながるように、乗らせてあげたいと思いながら今日はやった」。
自身も賞金レースと、V争いの重圧がありながら、相手が置かれた生活環境までも、配慮しながらゴルフをする難しさ。
「・・・だいぶ迷惑かけてますね」と、2つ下の後輩にそこまでやらせて、恐縮しきりの2つ上の先輩も、おのずと気合いが入る。
「明日は、なんとかシードを決めて勇太に報告したい」と、そんな神妙な中のボケっぷりが正岡の最大の魅力である。
「報告・・・って、明日も目の前でやるんだから、報告しなくてもわかんべ」と苦笑いの突っ込みで、2つ上の先輩をまた和ませた池田。
「明日も竜さんと優勝争いをして、どちらが勝つかはやってみてのお楽しみ」と言った2つ下の後輩に向かっておどけて正岡は、「どうぞどうぞ」とばかりに両手で相手に譲るポーズをした。
「僕は、優勝したいというのはまったくない。来年も“仕事”を得るために僕は、どうこの位置をキープするか。明日も勇太についていくので精一杯」と、来季のシード権の確保以上を求めない正岡。
そもそも、この土壇場まで引っ張ってしまった2つ上の先輩には「これまでの取り組み方が甘ちゃん」と、厳しく言ってもいよいよこれが、最後の1日というときになって、正岡が心に決めた気持ちの持っていきようまで、池田は責めるつもりはない。
「竜さんは、俺と違ってこれ以上、落とせない立場。本人がそういう気持ちでやって、良いゴルフが出来ているのなら、そこを俺が変にハッパをかけることもない。明日もそういう気持ちでやって、最後の3ホールでどうなのか。やりやすいやり方で回るのが一番」と、とことん面倒見の良い2つ下の後輩は、やっぱり2つ上の先輩を気遣いながら、最終日も回る。
「いや俺は、打つときにパッと集中して打てばいいから」と、そこは意に介さず「明日も、竜さんと良い優勝争いが出来ればいい」。
そばで2つ上の先輩もウンウンと、うなずいた。正岡の1大会での自身の最高獲得賞金額は、14年のフジサンケイで7位タイに入った336万2333円。
「今年、3桁稼いだのは日本オープン(45位、109万円)しかない」と笑いながら言う正岡に「自慢するな」と池田は苦笑いでぴしゃりと「苦しい思いをして、何千万円と稼ぐ嬉しさを、竜さんにも味わって欲しい」と、2つ下の後輩は2つ上の先輩に本気で願っている。