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マイナビABCチャンピオンシップ 2017

小鯛竜也がツアー初優勝

ついに大きなタイを釣った。今週もまた、台風の接近による荒天のため、最終日が中止。プロ11年目の27歳に初Vが転がり込んだ。第3ラウンド終了時点で単独首位につけていた小鯛は、一報を聞くなり籠もっていたロッカールームから飛び出し、真っ先に家族のもとへ。
「4日間やれなかったのは残念」。それでも地元関西の大会で、家族に直接これまでの礼を言うことが出来た。
「ダメな時こそ信じて支えてくれた。感謝してもし足りない」。

父手製の練習場で、腕を磨いて17歳でプロになった。免許を取るまで有給消化で試合の送迎をしてくれた。62歳の今季はシーズン途中に“引退”するまで、バッグを担いで支えてくれた。元体育教師の父・剛文さん。「小4でゴルフを始めた時からいつか息子はやってくれると信じていました」

18歳で出会い、23歳で結婚。24歳には子どもも生まれた。7つ年上の妻ゆいさん。「彼女が30歳までに、優勝して」と考えていたプロポーズは「なかなか成績が出なくてずるずるいった」と半分、計画倒れの「こんな僕で良かったら・・・」。4年前の入籍後も、鳴かず飛ばずも出来すぎた姉さん女房は「私が働く。あなたはあなたがやりたいように」と、あの日を思えば改めて、夫は「頭が上がりません」。

プロ11年目。「試合に出られない時期のほうが長かった。これだけ練習しているのに、なんでだろう、と」。クサって、当たったこともあったが高校時代から、変わらず指導してくれた谷川健コーチ。
スポンサーや、メーカーのみなさん。
「人との出会いやつながりが大きかった」と、帰り支度でごった返すクラブハウスで、感謝の初勝利を報告して歩いた。

3日目の眠れぬ夜は、重圧というより「明日の天気はどうなのか」。スマホの検索履歴は「ABC GCの天気」で埋まった。
「人生で、天気予報をこんなに見たのはなかった」。
先輩プロの高山からのメールは「周りがなんと言おうとやるつもりでいろ」。
深く頷いても落ち着かず、「朝もびっくりするほど早起きして、カーテン開けたら降ってない・・・」。
落胆を隠し、まだ小雨のコースに来て、予定通りに第1組が出ていき、やっと肝を据えて、最終組の準備を始めた。
もう次にもティオフという直前に、土砂降りの雨で競技は止まった。
その後、10時17分に中止が決定するまでの悶々とした時間。「素直にホッとしました」と、やっと男前が緩んだ。

ひとつ歳下の石川遼がこの大会で、プロ初勝利を飾ったのはちょうど10年前。
小鯛がちょうどくすぶっていたあの頃だ。池の中から打つVシーンはテレビで見たが「あのときは感動よりも、悔しさのほうが強かったのは自分のちっちゃなプライド」。
やってもやっても出場権すら獲れずにいた頃。「実力を発揮する場所がないというのが一番苦しかった」。
これ以上、何をしたらいいのかも分からなくなっていた。
そんな泣き言が、反省に変わったのは3年前だった。共通のプロを介して石川が恒例にしている年末の沖縄合宿に参加した。
「2週間、朝から晩まで一緒に過ごして、取り組む姿勢が自分とは、比べものにならない」。
特に度肝を抜いたのは、その練習量だった。
共に1日1000球近くも打ち込み、「練習だけで、筋肉痛になったのは初めての経験」。
手の皮が破れて血が出て「自分は甘かったと分かった」。

その年、長女の仁望(にの)ちゃんが生まれ、いっそう芽生えた自覚と共に、ファイナルQTで自身最高位の48位に。
翌16年にはチャレンジトーナメントで賞金ランク4位につけて、今年やっとこぎ着けた初Vでは石川のような最終日の劇的シーンもなく、54ホールの勝利ではまだ優越感に浸れるはずもない。

最終日を戦わずして、2位に終わった宮里は「叩き潰してやろうと思ってたのに」と、悔しがった。
目下賞金1位の小平智は「小鯛は最終日のプレッシャーを戦わずしての初優勝。ツアーは4日間やってこそ。今日やれば、自分が勝てた」と遠慮もなく悔しさをむき出すなど、小鯛と同い年でも負けん気の強さと勢いは、いまどの世代を見ても随一だ。

負けられない。
「次は、しっかりと4日間やって2勝、3勝出来る選手になっていきたい」。
次こそ文句は言わせず大鯛を釣る。

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