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関西オープンゴルフ選手権競技 2019
父に、亡き兄に捧げる初優勝
我が子が3打差の4位につけた3日目の深夜、妻の佳江さんと茨城県神栖市の家から車を飛ばし、7時間もかけて奈良県奈良市の会場に駆け付けた父親の隆さん(70歳)。
「来た甲斐がありました。今日はあの子が生まれてきてくれた時以上の喜びです」。
感慨にふけった。
隆さんが、まだ11歳の長男智之さんを脳腫瘍で亡くしたのは平成元年の1989年。
その1年後に誕生したのが智春だった。
「智之も、ゴルフが上手かったんです」。
失意のどん底で、新たに授かった次男に父の夢と希望が託された。
7歳からクラブを握らされた智春は、「試合の後で、1000球打たされたこともある。昔から親父は怖すぎて…」。
期待が大きかった分、父の指導も厳しかったが「兄のことは、昔から聞いていた」。
会ったこともない兄だったが「自分もしっかり頑張らないといけない」。
父の思いにも、懸命に応えようと頑張ってきた。
「途中レッスンプロに見てもらったりもしましたが、はじめは父に教わって、僕の原点。普段あまり感謝の言葉は言わないですけど帰ったら、言おうかなと思います」。
高校3年時の日本ジュニアで息子が石川遼に敗れた際には、「もうゴルフを辞めさせる」と怒った父。
当時、すでに石川はスター選手で、ファンにもみくちゃにされる様子を2人で遠巻きに見ていた。
「そのとき、息子にサインをもらいに来てくれた方が1人いて…。あのときは、嬉しくて泣いちゃった。やっぱり息子にゴルフを続けさせようと」(隆さん)。
この日のプレー後は、息子の前に数えきれない大行列ができた。
「最高の息子です」と言った、父の喜びははかりしれない。