地元笠間の星野陸也(ほしの・りくや)は、泣きたいほどの悔しさをこらえて笑顔でペンを握った。
「…星野選手、グローブちょうだい!」。
「あ~、グローブかあ…。キャディさんが持って行っちゃったよ、ごめんね~」。
サインをしながらやさしい声で答えた。
スタートから、地元の大きな期待を背負って出た。
1番ティでスタート係のお手伝いをしてくれた笠間市の一貫校「みなみ学園」中学ゴルフ部3年生の細谷里実さんと岡崎心星さん。
好きな男子プロゴルファーは「りくやくん!!」と、躊躇のない返事が返ってきた。
「どこが好き? いえもう活躍がすごいです。去年の東京五輪もすごかった」と、声を揃えて「あとは飛距離。少し分けてください!」と、本当はスタート前に声をかけたかったが単独首位の最終組で出る地元のヒーローは、すでにV争いのオーラが出ていてさすがに無理だった。
代わりに2人でちっちゃく背中にエール。
「優勝してください!」。
3年ぶりに復活した、1番ティのキッズエスコートでも小学生たちの一番人気。
2打差の単独首位から出る星野の最終組を担当してくれたのは、星野が4年生まで通った笠間市立北川根小学校スナッグゴルフチームのみんな。
誰がどのプロと一緒に入場するか、チームで星野を奪い合い。
厳正な審査によりなんとか丸くおさめて仲良く特等席で最終組を見送ると、急いで着替えてご家族と、星野のプレーを追いかけていったのは、4年生の柴田愛未(まなみ)さん。
今週月曜日に選手会が企画したサプライズイベントでは星野が運転するBMW車に乗って、石川遼と木下稜介と、宍戸でゴルフを楽しんだ。
「リョウくんもリョウスケくんも大好きだけど、やっぱりリクヤくんが一番好きかな…」とついて歩いて一生懸命応援したが、首位で並んで迎えた後半の15番でまさかのOB⇒トリプルボギー。
さらに17番では池に入れてダブルボギーとするなど「76」。
通算6アンダーの7位タイまで落ちた。
地元で悲願の初タイトルを逃した。
多くの期待を背負って戦うことの重圧がどれほどのことか。
4年生の愛未(まなみ)さんにも想像はつく。
前日3日目に、隣の東コースで行われたスナッグゴルフの「茨城予選会」で学校はみごと優勝を飾ったが、チームでエースの愛未(まなみ)さんは貢献できなかったという。
結果を出して当然と言われる状況で、それに応える難しさ。
しかも星野は「全米プロ」⇒「全米オープン・米国予選」で本戦進出を果たしてアメリカから帰ったばかり。体調が万全ではなかったことも、愛未(まなみ)さんには察しがつく。
それでも期待に応えるため全力で戦い、負けても腐らず、子どもたちの前でグッドルーザーの背中を見せてくれた母校の大先輩。
愛未(まなみ)さんから星野への伝言は、残念でも、悔しいでも、また来年頑張って、でもなく「ほんとうに、おつかれさまでした」。心のこもった声が出た。