スタート直前の洗面所で星野陸也は鏡に映った自分に愕然とした。
「すごく顔色も悪くて。弱くて、悲しい顔をしていた」と、いう。
今季は、開幕から7戦でトップ10を続けながら勝てなかった。
うち、地元開催は3度あり、特に、もっとも自宅近くで行われたタイトル戦「BMW日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」は、単独首位で出ながら痛恨の7位敗退。
「ゴルフのことを考えるのも嫌になるくらい。夜も眠れないほど悔しかった」と、回想し「よくよく振り返れば、弱気だった」と、改めて反省し「今日は攻めて行こう」と、懸命に自身を鼓舞。
「2週ほど前からドライバーもアイアンも、以前の調子に戻ってきた」と、序盤から高精度のショットを連発して他を圧倒した。
後半11番から4連続バーディを奪ったチャン・キムが一時1差に迫ったが、16番パー5で右バンカーからチップイン。
とどめのイーグルを決定打とした。
6月の「全米プロ→全米オープン米国予選」から帰国直後の胃腸炎で体重が激減。
7月の全英オープンでは、イギリスの空港で大事なキャディバッグをロストし、先週の「日本オープン」では弱点の首痛を再発させた。
出場さえ危ぶまれたが、「今度こそはという思いがあった」と、地元の声援を一身に背負ってプレー。
「いろいろ苦しいことや、精神的にも辛いことがありましたがそのたびにたくさん応援していただいたので、くじけないで頑張れました」と、涙ながらに感謝した。
今年4月に、2位に敗れた「ISPS HANDA 欧州・日本、とりあえず今年は日本トーナメント!」の舞台も同じPGM石岡ゴルフクラブだった。
「すごく期待をしていただいたのに、応えられなかった」と、悔恨を力に変えた。
「前回のリベンジを果たすことができて本当に嬉しいです」と、涙がこぼれた。
地元茨城県の水城高校3年時の2014年に、主催者推薦を受けて初めてプロの試合に挑戦したのが今大会だった。
「初めて予選通過もして、いろんなパワーが詰まった思い出深い大会。プロとして戻ってきて、地元で優勝するのが一番の目標でした。開催してくださったHEIWA・PGMさんには感謝しかない」と、3年ぶりの大会復活にも報いた。
ただひとり、20台越えの大量アンダーを記録しながら、「たくさんの方々が、ずっと応援してくださるのが嬉しくて」と大勢の知人や、高校ゴルフ部恩師の顔をロープ際に見つけてすでにプレー途中で泣きそうだった。
5打差で入った18番で、2打目をピンの左に乗せると我慢の限界が来た。
「うるっときてしまった」と、フェアウェイで急いで涙をぬぐい、万感の拍手に笑顔で応え、仲間から土砂降りの水を浴びたところでまた涙腺崩壊した。
「たくさん応援してくださって、ありがとうの気持ちで一杯」と、声が震えた。
ついに今季1勝、通算6勝で歴代9位タイとなる5年継続Vも決定。
賞金ランキングは比嘉と桂川に次ぐ3位に浮上した。
「ここらで勝てないと、食い込めないと感じていた。比嘉さんにも少し近づけた」と、悲願の地元Vを契機に、初の賞金王獲りを視界に捉えた。
涙も晴れた。
「なんとか滑り込めたと思うので。できたらもう1勝して狙っていきたいなと思います」。
笑顔と自信もやっと戻った。