終わる頃には空もすっかりたそがれていた。
2打差の2位から出て、1番でバーディ。稲森に追いついた。
2番で4メートルのチャンスを残して降雨の中断でいったん引き上げると、濡れたシャツを着替える間も、次のパットのことばかり。
3日目まで5回も3パットに泣いたが、15歳から教わる栖原弘和トレーナーと「左ヒジを前に向けるように」と、前夜の打ち合わせで修正済みだ。
「あれは入れたらきょうの流れが来るクラッチパット。絶対決める」と、何度もシュミレーションして高ぶった。
でも、外は大雨。ゲリラみたいな豪雨に場内は、そのまま中止の空気もあったが「プレーしないで負けるのは悔しい。再開できますように」。
祈る思いが空に通じた。
再開してすぐ2番で想定通りに連続バーディを決めて単独首位を奪うと、6番で8メートルを決め、作戦通りに刻んだ8番パー4では右5メートルのチャンスを作り、9番でOKの連続バーディ。
一時3打のリードが出来ても、蟬川の追い上げは怖かった。
「でも、コンロールできるのは自分のことだけ。自分じゃない自分から見て今の自分はどうなのか? ギャラリーの方が自分を心配してくれるような目線で自分を見るようにしたら、凄く落ち着いて冷静にやれた。平常心を保つというのを今週身につけられました」。
6月の5週連続に次ぐ今年6度目の最終日、最終組で得たのは自分を客観的に見る力。
1差で迎えた18番の15メートルのバーディパットもけして楽ではなかったが、2回でクールに決めきった。
今季2勝目、アマプロ通算3勝目で泣かずに優勝したのは初めて。
泣き虫ケイタも返上だ。
祝福に駆けつけた大学先輩の石川航(いしかわ・わたる)が「試合中は優等生っぽいですけど、普段はそれとはかけ離れている。けっこうふざけるし、めっちゃ面白いヤツですよ」と言って笑っていた。
その一端を見せたのは決戦前夜。
「部屋から出たくない」と、コンビニでハンバーグとナポリタンを買って帰って食べたら「部屋がお弁当の匂いになってしまった」とトコトコと、宿を抜け出し駅のベンチに一時避難。
「しばらく座って明日のプレーを考えました」。
たそがれたヨコハマは、日体大時代の4年間を過ごした馴染みの地。
母方の叔母もいて、青春の思い出が詰まっている。
「第二の地元と思うくらい好き」。
会場の横浜カントリークラブは、大好きな大学先輩、河本力(かわもと・りき)とよく練習にも来た。
「転がるフェアウェイと、絶対に入れちゃ行けないバンカーがあるのはリンクスコースと同じ。全英オープン(予選敗退)の悔しさを晴らしたいと思っていた」と明かし、「第1回で勝てたことは光栄ですし、ここで優勝できたことが嬉しい」と、感慨深い。
金谷拓実(かなや・たくみ)を抜いて再び賞金1位に返り咲いたが「海外では実力はまだまだ足りない。優勝に満足することなく、志を高く持ち、早く松山さんのいるPGAツアーに挑戦できるような選手になります」と背筋を正した。
「まだ1年目。偉そうなことは言えないですけど、最近、男子ゴルフは同世代や先輩方がバチバチで優勝争いしているので楽しいです。それを見に来てもらえたら」。
お茶目な素顔をひた隠して低音ボイスでアピールだ。