Tournament article
フジサンケイクラシック 2000
昨年、“川奈”を制したのは檜垣繁正
2位のスティーブン・コンランとはこの時点で3打差。本人のみならず、球の行方を見守っていたギャラリーの誰もが檜垣のOBを覚悟し、悲鳴をあげた次の瞬間-。
ボールは1本の松の木の根元で跳ね、あっさりと進路を変えてグリーン横のバンカーに腰を落ちつけた。
これを桧垣はピンまで3メートルに寄せてバーディ。
数センチ違えば、絶対にOBだった。流れは、桧垣に来ていた。このバーディで桧垣は運を引き寄せ、一挙に勝利に近付いた。
「ボクは大事なときに限って、クラブフェースがシャットになりすぎて、切り返しで外から入る癖があるんです。16番では、バーディが取れたら勝てる、と思って、セカンドは残り227ヤードくらいをスプーンで打ったんです。風がアゲンストでしたから、低い球で前から転がそうと思ったんです。そしたら、やっぱりここでも手首が早く、ほどけてしまって。また、やっちゃった〜と思いましたよ。あの球の勢いなら、ぜったいさよなら(OB)だ〜って、覚悟しました。でも、あんな奇跡的なこと、あるんですね。残ってくれ〜って思ったとたん、右に跳ねてくれて…これはもう、きょうはボクに勝てといってくれてるんだと。16番はほんとにツキがありました。ボクのキャディ(ゲーリーさん)も、『おまえは世界で1番ついてる男だ』って言ってくれました」(昨年の桧垣のコメントから)
続く17番パー3(185ヤード)。海風の影響をまともに受けるティグラウンドから、砲台状の小さなグリーンを狙う難ホール。万一、ワンオンに失敗すれば、グリーン下まで転がり落ちてしまうこともある危険ゾーンで、桧垣はティショットをピン左奥10メートルに乗せた。
これを1メートルに寄せてパー。
「17番はとにかく乗せられるかどうかの不安がありました。5番アイアンか6番か迷って、手前にショートさせてダボとかなったらまずいだろうと思い5番で打ちました。乗った瞬間、本当にホっとしましたね。これで最悪でも、最後はボギーでいけると思った。勝利を確信しました」
最終18番パー4でティショットは右の深いラフの中へ。前方に木がせり出しピンは狙いにくい。
桧垣は、グリーン手前の花道めがけて第2打を打った。それは花道横のラフに飛びこんだが、そこから桧垣は落ち着き払ってピン左7メートルに3オン。
それを2パットのボギーで収め、2位のコンランと3打差でフィニッシュし、檜垣はツアー初Vを手に入れた。
「18番グリーンに上がってきたときは、勝ったと思う気持ちが半分。ぜったいボギーで収めようという気持ちが半分。左ラフから、左グリーン手前に寄せて最低ボギーでいこうと。それは、3打差あったからできたことかもしれませんけれども、それもラッキーな16番などがあってこそでしょう。
先週(99年中日クラウンズ)は今野君が勝ち、去年(98年)は横尾君、片山君など同世代が次々初優勝して…自分もできるだけ早く勝って、肩を並べたい気持ちがありました。
でもなかなか勝てなかった。それで、今オフ、自分には何が必要かいろいろ考えました。その中で、目標設定できたことで、ゴルフの技術を上達できたことが大きなポイントだと思っています。開幕当初は予選落ちがつづきましたが、昇り調子だったから、落ちこんだはしなかった。
これまで、うまくやろうという気持ちがカラまわりして、だんだん、ゴルフをすることさえイヤになりかけていました。でも今は、ゴルフをやっていて楽しいと思えることが本当に嬉しい。そういう気持ちで勝てたということが、何より充実感につながっています。
この1勝で満足せず、気持ちをゆるめたり天狗になったりすることなく、ぜひもうひとつ勝ちたい、という気持ちでやりたいと思っています」(檜垣の昨年の優勝コメントから)。