Tournament article
サトウ食品NST新潟オープンゴルフ選手権競技 2003
『優勝は、難しいと思うよ・・・』前夜、家族にむけて、宮本勝昌が弱気なセリフばかり口にしたワケ
グリーン横テントでのアテストももどかしく、宮本が向った先は、打撃練習場だ。
「あんな短いパットさえ外して、流れが悪い。これは絶対に2位の真野君とプレーオフ、と思った。それに備えてとにかく、練習しなくちゃという気持ちでいっぱいだったんです」。
1打差で追いかけてくる真野は、宮本の2組後ろの最終組。ライバルがホールアウトするまでの短い時間を、プレーオフホールの18番パー4を想定して、ドライバーと9アイアンの練習を、必死で繰り返したのだった。
この週、練習日に宮本は、師匠の芹澤信雄にこんな相談をしている。
「いったい、いま僕のスイングはどうなっていますか?」それは、自分ではどうにもならないくらいに宮本が、調子を崩しているときに決まって口にするセリフだった。
それほどに調子が悪くないときならば、「ここのこのポイントが悪いと思うんですけれど、どうやって修正したらいいですか」という、具体的な聞き方もできる。しかし今回ばかりは、どこが悪いのかさえ自分では分からない状態で、そんな質問の仕方しかできなかったのだ。
そんな宮本に芹澤は、「オマエ、またかよ」と呆れたように言って、それでも2箇所欠点を指摘してくれた。
ひとつは、トップスイングで腰が引けている点と、もうひとつはバックスイング時に左サイドの股関節のしまりがなくなっているという2点。その修正のために、右足かかとでボールを踏んでスイングしてみたり、7アイアンで高くティアップして打ったりして日が暮れるまで練習に励んだ宮本だった。
「練習は裏切らない」が、宮本の座右の銘だ。しかし、どんなにハードな練習を積んでも、不安だけはちっとも去ってくれなかった。
自信もまったく沸いてこない。その証拠に、最終日の前夜は家族から励ましの電話があったが「優勝は難しいと思うよ」と弱気な言葉ばかりがついて出たものだ。
スイングへの不安に、優勝争いのプレッシャーと焦りが加わって、案の定、6番ホールで左池ポチャ。安全策で3アイアンを握ったのに、ボールはイメージしていたよりも30メートルも左に飛んでいった。ボギーだ。
あがりの16番パー5は、幸いにもバーディこそ取れたが、これまた第2打は大ミスだった。グリーンの右サイドを狙ったつもりが、おもいきり左に大曲りしてあわや OB。それでも思ったよりライが良いところにあったので命拾いはしたが、ほんとうにヒヤリとさせられたシーンだった。
そんな数々のピンチの連続だったから、たとえ首位でホールアウトしたといっても宮本は、けして楽観できず、時間を惜しんで練習するしかなかったのだ。優勝の知らせは、練習場で受けた。懸命に球を打つ宮本に、真野が結局、通算16アンダーのままホールアウトした、との朗報が入ってきた。それを、宮本は複雑な思いで聞いた。
昨年2位の雪辱を晴らして、約1年半ぶりのツアー5勝目は、もちろん、嬉しいには違いなかったが、宮本の胸の中にはくすぶるものがあった。
「内容は70点くらい。もっとかっこよく、100%で勝ちたかったのに・・・」自分のゴルフに不満げに、宮本は、優勝インタビューでもほっぺたを膨らませたのだった。