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アイフルカップゴルフトーナメント 2004
谷口拓也、涙の優勝インタビュー
谷口拓也、涙の優勝インタビュー
出だしのピンチをどうにか切り抜けた谷口に、また新たな試練が訪れていた。
同じ組のS・K・ホが、スーパーショットを連発していた。前組の宮本勝昌が、5打差4位から猛然と追いかけてきた。
10番のボギーで1打差まで、追い詰められた。
息詰まる接戦に、前夜、受け取ったメールがよみがえる。
「“何苦楚魂”で、頑張って来い!」。
同じ四国出身で、プロ野球ヤクルトスワローズで活躍する岩村明憲・内野手からのメッセージ。『何苦楚』は「なにくそ!」と読む。昨年、岩村選手のお兄さんを介して知り合ったひとつ上の先輩の座右の銘だ。
谷口も気に入って、ゴルフボールにプリントしている。
窮地になるとすぐにその字を見つめて「なにくそ!」と、目の前の1打と向き合った。
16番で、2メートルもないパーパットを外した。3パットのボギーで、いよいよ宮本に並ばれた。
「以前のあの子なら、そのまま崩れて、負けていたでしょう。この2年間で、精神的にほんとうに強くなりました」(母・美恵さん)。
土壇場のピンチには、前夜の電話がよみがえった。
「お前なら、できる」。
東北福祉大の阿部靖彦・ゴルフ部監督。大学2年のとき、2度の退部勧告を受けた谷口を、「頭を丸めていちからやりなおせ」と引き止めてくれた人物。その翌年から、 2年連続で中四国アマを制するなど、現在の礎を築くことができた。「先生がいなかったら、僕はここにいない」というくらい信頼を寄せている恩師からの言葉が、初勝利を手繰り寄せる原動力となった。
17番で、3メートルのバーディパットを入れて再び1打差。
最終18番は、ティショットを右のラフに打ち込んだ。グリーン右手前から斜面がせり出して、その地点からはピンフラッグが見えない。無難に左に逃げて確実にパーであがる手もあった。
しかし谷口は、「そんなの、僕らしくない。逃げるより、攻めていく!」と、ダイレクトに右サイドのピンを狙っていった。
ピッチングサンドで打った残り105ヤードの第2打は、手前3メートル。V目前のプレッシャーに「3パットするかもしれない・・・」との不安は、台風10号の名残が吹き飛ばしてくれた。
ウィニングパットは「フォローの風に乗って」、最後のひと転がりでポトリ、とカップに落ちた。
バーディフィニッシュでつかんだ、歓喜のツアー初優勝。
全身で、喜びを表現した派手なバンザイポーズ。そのあとは、最後まで応援してくれた大ギャラリーへの感謝の気持ちも忘れなかった。
18番グリーンを去る際に、今週バッグを担いでくれた伊能恵子さんと、揃ってクルリとフェアウェー方向へ向き直った。
2人並んで深々とお辞儀。
ヒーローインタビューでは、「見守ってくれた父と母にも感謝したい・・・」と言うなり、ふいに言葉を詰まらせた。
ぬぐってもぬぐっても、後から後からこぼれ落ちてくる涙が、谷口の思いのたけを伝えていた。
「・・・でも、あいつは私らのことなど目に入っとらんでしょう(笑)。ああいうふうにしておりますが、内心はものすごいプレッシャーを感じとったと思います。よく、頑張ってくれました」(隆政さん)