Tournament article
マンシングウェアオープンKSBカップ 2007
土井邦良・地域活性委員会委員長「こんな素晴らしいチャンピオンが誕生したことは、私たちの誇りです」
6時10分の開門とともに、30人が入場した。
そして、時間を追うごとに、その数は目に見えて膨れ上がっていき、やがて大きなうねりとなった。
途切れることのない人の波は、次第に思いをひとつにしていった。
15歳の石川遼君の優勝を祈る気持ち。
並み居るプロを押しのけて、元気に明るくスコアを伸ばしていくアマチュアを、みな心から応援していた。
嬉しそうに拍手や声援を送るギャラリーの表情を見るにつけ、「皆がゴルフを心から楽しんでくれていた」と、土井邦良さんは感じている。
ミサワホーム中国株式会社の代表取締役社長の土井さんが、このマンシングウェアオープンKSBカップを通じて「晴れの国・岡山の魅力を全国にアピール、地域活性の起爆剤にしよう」と、民間の支援ボランティアを発足したのは2004年だった。
「大会を日本のマスターズに。日本一のトーナメントに」を合言葉にしたその活動は、じわじわと広がりを見せていき、回を重ねるごとに観客動員数を増やし、国内で4番目となる2万2465人を記録したのは昨年大会。
同時に、ここ岡山県・玉野市にある東児が丘マリンヒルズゴルフクラブでの、4年目の開催が決定した。
今年、地域活性委員会メンバー50人の活動はますます活発になった。
開幕前の告知活動はもちろん、それは本戦に入っても続いていた。
あるメンバーは、県内の真庭市から大型バスをチャーターして観戦ツアーを組んだ。
またあるメンバーは、地元ジュニアをトーナメントに招待し場内を案内して回った。
土日に行われた「ゴルフ未経験者のためのゴルフ初体験講座」は委員会の中から意見があがり、実現した企画だった。
土井さんは、もともと火・水曜日だった会社の休日を開催週に限り、大会に合わせて水・木にずらし、社員の皆さんに「家族を連れて、ゴルフを見に行こう!」と、呼びかけた。
大会期間中は、メンバーも会場に駆けつけて、大会を盛り上げるべく奔走したが、「皆の共通の思いは、男子ツアーの本当の楽しさ、面白さを地元のみなさんに伝えたい。ただそれだけなんです」と、土井さんは言った。「実際に来て、見て、肌で感じてもらうことで、“ああ、また来年もゴルフを見に行こう!”と思ってもらえれば本望なんですよ」。
そんな土井さんの思いは、しっかりと伝わっているのではないだろうか。
それは、悪天候にもかかわらず、足を運んでくださった方々の表情や会話を聞いていれば分かる。
豪雨の中で、雨宿りしていた男性のギャラリーが言った。
「まあ、自然現象だからしょうがない。せっかく楽しみに来たんだから。止むまで待って、しっかり見て帰ろうよ」。
またある女性は生き生きと、子供にこう語りかけていた。
「お天気は悪かったけど、本当に楽しかったね。また来年、見に来ようね!」と言う母親に、男の子が大きくうなずく。「プロってものすごく、カッコいいよね!」。
男子プロの迫力のある弾道に感嘆の声をあげ、ナイスプレーに惜しみない拍手を送る。
開催当初はまだ観戦に慣れていなかったせいか、トーナメントにはなくてはならないそんな光景さえ、なかなか見られなかった。
しかし今年4年目を迎え、「ギャラリーのみなさんも、着実に成長してくださっている」と、土井さんは感じている。
そして、会場に漂うその空気こそが、「今回、この新しいドラマを生んだのだと思う」と土井さんは目を細めた。
史上最年少のチャンピオンは、優勝インタビューでこう言ったのだ。
「大勢のギャラリーのみなさんと一緒に悔しがったり、喜んだり・・・。遼くんガンバレと、声援を送ってくださって本当に嬉しかった。みなさんのおかげで、優勝することができたんです」。
石川君が言ったこのコメントこそ、土井さんたちが目指す、理想のトーナメントの形ではなかったろうか。
表彰式のあと、参列したツアープレーヤーと、石川君が感謝の気持ちを込めて、サインボールを満員のギャラリースタンドに投げ込んだ。
ファンサービスが済んだあと、スタッフを通じて土井さんたち地域活性委員会のみなさんを紹介された石川君は、事情を聞くなり深々と頭を下げた。
土井さんに改めて礼を述べている最中に、「あっ!」という顔をした。
「・・・僕、さっき優勝スピーチで、ボランティアのみなさんへのお礼を言い忘れてしまいました。ほんとうに、ごめんなさい!」。
土井さんは「うんうん」というふうに、微笑んだ。あとで、静かにこう言った。
「この大会から、あんな素晴らしいチャンピオンが誕生したことは、私たちの誇りです」と。