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マンシングウェアオープンKSBカップ 2007

石川遼くん「塘田くんは、世界一のキャディです!」

ひとまず36ホールを戦い終えて、この日2度目の最終18番で、固い握手。そのあと、他のすべての選手のプレーを待って、優勝が決まった瞬間に改めてまた握手。表彰式が終わったあとは、今度は歓喜の抱擁だ。

何度、喜びを分かち合っても物足りない。むしろ時間を追うごとに、ますます思いは強まっていく。
この週、バッグを担いでくれた塘田隼也(とうだしゅんや)さんへの感謝の気持ち。

2ラウンド目の15番パー5。ピンまで265ヤードの第2打は、塘田さんと一度は「ピンにキャリーで行こう」と決めた。
と、ふいにフォローの風が吹いてきて「2アイアンに替えようか・・・」。
迷う石川君に、塘田さんは言ったのだ。

「2アイアンが打ちたいならそれでもいいけど、キャリーで狙ったほうがイーグルの可能性がある。遼のゴルフは、攻めるゴルフじゃなかったの?」。

この言葉に、スプーンに持ち替え2オン成功。結果的に3パットに終わったが、要所要所で自分の持ち味に気付かせてくれた塘田さんの存在は大きかった。

2人で「スコアより、ひとつでも多くバーディが取ろう」と、話し合ったのは開幕直前。
1日36ホールで回ることになった最終日、首位と4打差の通算6アンダーで迎えた最終ラウンドは「10個バーディを取ろう」と決めた。
「ひとつ取るたびに、塘田くんとあと何個だね・・・って(笑)。だから最後まで、緊張なんてまったくなかった。とても楽しかった」と、振り返る。

きっかけは、石川君の3年後輩で、塘田さんの弟・捷人君だった。
杉並学院中等部のゴルフ部に所属する捷人君が、今大会に出場することを聞きつけて「岡山にアニキがいる。キャディをやってもらえば」と持ちかけた。
そして5月の連休に、初めての顔合わせ。地元・吉備国際大学3年でやはりゴルフ部に所属する塘田さんと、意気投合してタッグを組むことになった。

石川君にとって初めてのトーナメントは、塘田さんにも同じだった。
初のツアーキャディを務めることになり、2人して戸惑うことも多かったが二人三脚で乗り越えた。
1日36ホールで行われた最終日は「守ったホールは、結局1ホールもない」と、塘田さんは言いきった。

最後の18番の第2打で握ったのもやっぱりスプーンだった。
終始、果敢な攻めが、詰め掛けた大ギャラリーを大いに喜ばせた。
強気が身上の石川君のゴルフを、塘田さんがますます引き立てた。

優勝スピーチで石川君は、ギャラリーやスポンサーのみなさんにひとしきり礼を述べたあと、大声で塘田さんを壇上に呼び寄せた。
人目もはばからず、泣きじゃくって塘田さんの首にむしゃぶりついた。
ありったけの喜びと、感謝の気持ちを伝えたかった。

「優勝できたのは本当に塘田くんのおかげです。僕にとって世界一のキャディです!」。
すぐに、遠慮がちに表彰式の隅っこに下がった塘田さんは、目を真っ赤にして聞き入った。
  • 壇上で抱き合ったあとも、涙が止まらない石川君(左)。我に返ってはにかんで、舞台のソデに下がった塘田さん(右)。

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