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長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップゴルフトーナメント 2009
中嶋常幸「元気づけられるプレーを見せたい」
ようやく練習を「解禁」したのは7月に入ってからだった。
それでもこの日、ピンチは2メートルのパーパットを残した2番と、6番、13番の3ホールだけ。ボギーなしの4アンダーは「出来過ぎだったと思う」とは、偽らざる本音だろうが、一方で自負もある。
先週、リンクスで大暴れした59歳のワトソンの活躍をして、「飛距離とスイングの完成度の高さ。あとは、あれだけ勝ってきたという経験だろう」と評した中嶋自身にもそれは言えることで、今週はコースとの相性も相まって、ツアー通算48勝の54歳には調整不足にもかかわらず、この日の好スタートも別段、特別なことではない。
やはりターンベリーで行われた86年の全英オープンで、グレッグ・ノーマンとともに最終日最終組で回り、8位に入った経験を持つ中嶋は、最終ホールで奧からのアプローチをオーバーし、3メートルのパーパットを外してプレーオフにもつれ込んだワトソンの心情を思いやる。
「最後のワトソンのあれは、アドレナリンなんだよ。あのアプローチだって、柔らかく打ちたいんだけど、打てないんだよ。俺には分かる。最後は惜しかったけど、でも涙が出るほど凄い活躍だったね」。
「じゃあ中嶋さんも、ワトソンに刺激を受けて・・・」と、合いの手を入れた報道陣には、苦笑いで首を振る。
「やめてくれよ、プレッシャーをかけるのは。自分に過度な期待はかけたくないんだ」。
笑ってそうたしなめたのは、実は「内心は、自分に期待している」からこそなのだろう。
10日前から伸ばし始めた無精ひげは、「げん担ぎ」という。
しかしそれが誰の、何のためであるかは明かさなかった。
昨年の日本シニアオープンで、2年ぶり3度目のタイトルを獲得した際にも「病気と闘っている友人のために」と、ウィニングボールをポケットに忍ばせたが、本当に大事なことは秘して語らず。
けっして、その友人の名前を明かそうとはしなかった。
記念のボールはあとで、当時病床にあった日本ゴルフツアー機構の亡き島田幸作・前会長に贈ったことが周辺から知れたが、やっぱり本人の口からは何も語られなかった。
今回は、「優勝したら言うよ」と言い、「・・・ということは、話す機会は多分ないな」と冗談交じりに笑ったが、自分の頑張りを見せたい相手がいることは確かだ。
「最後まで、元気づけられるプレーが見せられればいい」と、白髪交じりのアゴひげをゴシゴシとこすった。