Tournament article
中日クラウンズ 2009
平塚哲二が50代目のチャンピオンに
錚錚たる面々が続く、日本最古のスポンサー競技で50番目のチャンピオンにおさまって、思わず声を詰まらせた。
まして、昨年までの苦しみは、涙なしには語れない。
いや、つい前週までは、こうまで思い詰めていたのだ。
「俺はもうダメなのか・・・」。
もともと何事もストイックに臨む選手だ。トレーニング過多の影響だったのだろうか。両手首や腰など体のありとあらゆる箇所に故障を抱え、昨シーズンはついにはスイングまで壊した。
特にドライバーショットで不振を極め、「打った瞬間、ボールが視界から消える」。
アイアンなら軽く3、40ヤードは左に曲がる。
昨年末にはついにチーピンしか出なくなり、ダンロップフェニックスとカシオワールドで2試合続けて棄権。
あちこちに痛みを抱え、ランク52位でシード権を確保するのが精一杯の状況ではその翌週の、最終戦で頂上決戦のゴルフ日本シリーズJTカップに出番があるわけもなく、そのまま平塚の2008年は終わっていた。
一方で、大親友の矢野東はその年、大活躍。片山晋呉と最後まで賞金レースを争う様子に、「ますますへコんだ」と、振り返る。
矢野は矢野で「自分が良かっただけに、逆に何も言えなかった」と複雑な心境を打ち明け、また平塚もそんな親友の心遣いが分かるだけに、仲間の前ではわざと明るく振る舞い、ひそかに胸を痛め続けた。
そんな不甲斐ない1年を、払拭するこのビッグタイトル。
今年は新しく早川怜トレーナーと契約を結び、出場権のない時代に転戦していたアジアンツアーに再び活路を求めた。
時間があるがゆえに過酷なトレーニングでまた体を必要以上にいじめてしまいかねないオフを連戦に当て、試合感を継続させることで、本来の勝負強さを取り戻しつつあった。
復調傾向にありながら、開幕2戦で予選落ちを喫して落ち込む平塚を、内藤雄士コーチは「あとは気持ちの問題。スイングは良かったころに戻っている」と、励ました。
それでも半信半疑の平塚に、今週の練習日に矢野が言った。
「パットもスイングも、絶好調だね。行けるよ!」。
さらに、4打差の首位に立った前日3日目には、同組で回った飲み仲間の久保谷健一が「もう心配ない。明日は普通にやれば、楽勝だよ。ぶっちぎりは間違いなし!」。
3番パー4で20ヤードの第3打を7番アイアンでチップインバーディ。独走態勢を築き上げるとそれは、苦手なホールが続く和合の13番、14番、15番をパーで乗り切ったとき、現実のものとなった。そしてもともと難コースに強い男には、何より和合での戦いがその薬となった。
「優勝争いに加わることで、気持ちも体も引き締まってスイングが良くなっていった気がする」。
7打差の独走Vは、完全復活の証か。
矢野や久保谷や、井上信(まこと)。どん底のときも、さり気ない心遣いで支えてくれた親友の手で、シャンペンシャワーを浴びて「最高の仲間たちです!」と、声もうわずる。
4年前、父・央さんを亡くしてひとりひそかに涙を流した37歳も一児の親。
喜びいさんで駆け寄ってきた3歳になる長男・仁(じん)君を分厚い胸板でしっかりと抱き留めて、「子供が見ている前で恥ずかしいことは出来ないと気持ちが引き締まった。初めて子供の前で勝てたことが嬉しい」と、最後は父親の顔で笑った。