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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2008
石川遼が1打差3位に
しかし、「思っていたより早く曲がってくれた」というフックラインはまるで、計算し尽くされたよう。大歓声とともにカップに吸い込まれた。
「外れていたら、4メートルは行ってしまったショット。奥のカラーまで行っていたと思う」。
戸惑いの表情を隠さないまま、1打差の3位タイに浮上した。
大事な局面でいつも奇跡を呼ぶ17歳だ。
勝てば今大会最年少優勝ばかりか、日本と名のつくトーナメントでの最年少優勝が実現する。1928年に19歳9ヶ月17日で日本オープンを制した浅見緑蔵氏の記録を抜ける。
さらに今週発表の世界ランクは66位。
優勝すれば、ランク50位に食い込む可能性があるかもしれない。
夢のマスターズが見えてくる。
また、現在賞金ランクは5位。
ランキングでトップ3に食い込めば、来年の全英オープンにも出場できる。
数々の偉業に挑める位置で、今年最後の1日を迎える。
「ラッキーな男だな…」。
春先よりも数段、野太くなった声でしみじみとそう言ったがすべての奇跡も幸運も、この1年間の努力と鍛錬に裏打ちされたものだ。
最終18番は、急な下り傾斜のパーパット。
カップまで1メートルを「ジャストタッチ」で打てるのも、日頃の地道な練習の成果だ。
今年9月のフジサンケイクラシックから始めた練習法は壁から30センチ離したところにペットボトルを置き、壁とペットボトルの間にボールを3球打つ。
しかしただ3球打つだけではなくて、ペットボトルをカップに見立て、オーバータッチから徐々にジャストタッチに距離感を合わせていくトレーニングを繰り返した。
時に妹の葉子ちゃんや、弟の航くんを巻き込んで、ゲーム感覚で取り入れた。
「いつも葉子のほうが上手かったけど」と笑う。
先週までの平均パット数はランク3位。
「そんなの全然ありえない」と、謙遜しながらも「今まで続けてきたことが、最後の最後に出来るようになって練習の甲斐がありました」と深く頷く。
この日の後半あたりから違和感を覚えていたというティショット。
「何かがおかしい…」。
解明できないまま競技は終ってしまったが、その足で向かった練習場ですっかり晴れた。
コーチで父の勝美さんが「遼、アドレスがオープンになってるぞ」。
特に肩。言われるまま構え直すと方向は合っているのに自分ではかなりクローズに感じられた。
「相当、ひどく開いていたのだ、と…。明日はなんの不安もなく100%でのぞめる」。
準備は整った。
気力も十分。
「これでツアーが終ってしまうのかと思うと寂しい。出来ればもっと試合をしていたい」という余裕。
そんな石川にテレビ解説の青木功が画面を通じ、「遼は、ゴルフが楽しくて楽しくて、仕方ないんだろう?」と問いかけたあと、「もう、そのまま勝っちゃいなさい」と、ゲキを飛ばした。
「これで最後なので、一番良いラウンドをしたいと思います」と、笑顔で答えた。