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矢野東が酒田市立浜田小学校を訪問
今年1月からスタートしてから4校目を迎えた今回は、このほどアカデミー賞で、外国語映画賞を受賞した「おくりびと」の舞台になったことで、一躍脚光を浴びた山形県・酒田市にある「浜田小学校」だ。
オスカー受賞の朗報に沸いた日の翌24日(火)。小学校ではこのプロゴルファーの登場に、沸きに沸いた。
矢野東は教室に入るなり、胸を熱くした。
黒板いっぱいに「ようこそ矢野東プロ」の文字が踊る。
掲示板には自身のプロフィールや資料がべたべたと貼ってある。
“矢野先生”を迎えるに当たり、子供たちが事前にその人となりを調べ、研究してくれた様子がありありと伺えた。
歓迎ムードに感激しながら矢野は、この日受け持った6年生47人に訴えかけた。
「夢を持とう。そして、その夢の達成のために、努力しよう」。
たとえば、医者になりたいと思っても、勉強もせずになれる人はいない。
たとえばパティシエになりたければ長い下積みを積んで、修行に修行を重ねなければなれない。
授業の途中で、子供たちに将来の夢を発表してもらった。
「お金を25メートルプールいっぱい稼ぎたい」と、おもしろいことを言った生徒がいた。
「25メートルプールいっぱいということは2000億円くらいかな」と笑い、「実現するためにも今は、とにかく勉強を頑張ること」。
また「バスケットの選手になりたい」という女の子には「暇さえあればトレーニングを。辛いトレーニングはすればするほど結果につながるからね」と、矢野は説いた。
夢を叶えるために、いま自分は一番何をすべきかを常に考えること。
そして、それを実際に行動に移すこと。
昨年は最後まで片山晋呉と賞金レースを争って、獲得賞金は1億3706万4052円。自己最高の賞金ランキング2位という成績も、そのたまものにほかならない。
毎日何十キロも走ったり、ジムで重いものを持ち上げたり……。厳しい練習やトレーニングも耐えてやり抜いたからこそだった。
そう言って胸を張る矢野でさえ子供のころは、勉強よりも、努力することよりも、友達と遊ぶほうが楽しかったと打ち明けた。
自分の欲望に負けそうなとき、たまたま読んだ本で考え方が変わったという。
「僕は上手くなる、強くなる、という自分をイメージすることで、辛い練習も楽しくなる。
勉強もそう。100点を取って、通知表でAをもらったときのことをイメージしたら、勉強がおもしろくなる。気持ちを切り替え、成功している自分をイメージしたら、僕も頑張れる気がしたんだ」。
ゴルフを始めたのは10歳のときだが、3歳でスキー、4歳でスイミング、7歳でサッカー、13歳で野球。
「ありとあらゆるスポーツを経験した。スポーツ小僧だった」。
スイミングスクールで、タイムが悪いと鬼コーチに竹刀で殴られ、プールから上がらせてもらえなかった。帰りのバスは途中で降ろされ、そこから自宅まで走って帰れと命じられた。
野球チームもまたしかりだった。
「でも、そんな数々の経験があって、今の僕がある」。
そして、どのスポーツでも共通していたのは「上手くなりたい」というひたむきな思いだ。
様々なスポーツでの経験が目標を持つこと、また、それに向かって努力することの大切さを教えてくれた。
「みんなにも、夢を持ち、努力する楽しさを知って欲しい」と唱えた矢野自身の今の目標は「世界一のプロゴルファーになること」だ。
現在の世界ランクは78位。「あと77人抜いて、世界一になるにはどうしたらいいか……。いつなれるかも分からないけれど、とにかく毎日練習してトレーニングをして、僕も一生懸命に努力します」とみんなの前で約束した矢野に、子供たちからプレゼントが贈られた。
色紙いっぱいの寄せ書きと、子供たちが丹精込めて作った米10キロ。
校外学習の一環で、田植えから稲刈りに天日干し。すべて子供たちの手による米の名前は「きらり米」だ。
同校では卒業を控えた6年生を「きらり学年」と呼んでいることにちなんで命名されたという。
この日出会った子供たちがその名のごとく、いつかきらりと光る夢を持てるよう……。子供たちの手からずっしりと重い米袋を受け取ったとき、矢野は祈るような気持ちでいっぱいになった。