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〜全英への道〜 ミズノオープンよみうりクラシック 2009

田中秀道「今日のゴルフは嘘なんです」

久しぶりに明るい笑顔だ。ホールアウトするなり「戦後最高でした!」と弾んだ声。つまり、本人が日本ツアーに復帰してからというもの、それくらいに素晴らしいゴルフが出来たという意味のジョークだが、そんな軽口が飛び出すということが、近頃の田中には本当に珍しいことだった。

4アンダーの6位スタートにもまして嬉しいのは「ボギーなしということです」。
好スタートに「克典さまさまです」と、今大会のホストプロに感謝した。

普段、めったに人に聞かないという田中が、ミズノ所属の桑原克典に教えを乞うたのは先の日本プロ。
フェードヒッターの先輩に「教えてもらった要素が、理解出来た」。

その週、予選落ちこそしたものの、理想とする球筋が打てそうだという手応えをつかんだ。
1週間のオープンウィークでみっちりと練習を積み、生来のドローヒッターも、曲がり幅が軽減し、ほとんどストレートのボールが打てるようになってきた。

今週こそそれが、実戦の中でやれるかどうか。

「でもやっぱり、今日も暴れまくってOBを打ちまくるんだろう、と」。
本人の不安とは裏腹に、前半の16番パー5はフェアウェーを捉え、残り65ヤードの3打目をサンドウェッジで手前2メートルにつけてこの日最初のバーディを奪い、「当たり前のことが、当たり前のように出来ることが凄く嬉しい」との言葉に実感がこもる。

渡米から5シーズン目の2006年にシード落ちを喫した米ツアー。
体のあちこちに故障を抱えたまま無念の帰国をした。

「本当は、体も心も、戦えるような状態じゃなかった」。
それでも責任感の強い男は帰りを待っていてくれたファンの期待に答えようと、自らにムチ打った。
それが災いした。
スイングも壊し、2008年にはいよいよ体が立たなくなった。
クラブを握ることすらままならず、開幕戦での棄権をきっかけに戦線離脱した。

そのあいだに、98年の日本オープン優勝で獲得した10年シード(当時)が切れた。

トーナメント中の負傷を公傷とみなして適用される「特別保証制度」からシード復帰を目指す今季は、本人にとっても「リハビリ」という気持ちが大きいだろう。

だから、一気に大きな成果を期待しない。
この日の好スコアにも、手放しで喜ばない。
「今日のゴルフは嘘なんです」と笑った。
「明日はきっとまた暴れます」とも。

もちろん、全英オープンの出場権などはなから頭にない。
自嘲の笑みで「今はそういうのは何にもないんです」と、首を振る。

「ただ、あるのは今の自分のテーマだけ。数字より内容。今日より明日。数ヶ月後に絶対見とけよ〜という気持ちでやってますから。明日は、今日よりももうちょっとだけ気持ち良い感じでプレーできることが目標です」。
どん底から這い上がってきた男は欲張らない。

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