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マイナビABCチャンピオンシップ 2008
石川遼は「まだまだ強くなりたい」
当の石川も大声援に無邪気に応えているようで、実は自問自答していた。
「これほどに期待されるほど、僕はゴルフが上手いのか。僕はこの中でも一番下手な選手なのに」と、そんな引け目を感じてしまうのも当然だった。
プロ1年目の17歳。
それでも毎週のように、大ギャラリーを引き連れてのラウンドに「せっかくの応援をプレッシャーには思いたくない」。そうは言いながらも背負うものの大きさに、押しつぶされそうになっていた。
特に9月だ。
ANAオープンと、アジアパシフィック パナソニックオープンと、コカ・コーラ東海クラシック。
いわゆる“ホスト大会3連戦”で立て続けに予選落ち。
「どんなに頑張っても結果が出せないときもある」。
そう自分に言い聞かせても、忸怩たる思いは拭えなかった。
「自分はここにいてもいいのか?」。
プロとしての存在価値を疑ったこともある。
「こんなゴルフでお客さんが満足してくれるわけがない」と、自らを追い込んだことも。
だからこそ、誰よりも多く練習場に足を運んだ。
誰よりも多く球を打った。
プロ転向後19試合目のツアー初優勝に、専属キャディの加藤大幸さんが証言する。
「彼はそれだけのことをしている。人より3倍も4倍も、練習している」。
朝、選手たちがコースに来る時間の目安はたいていスタートの1時間半からせいぜい2時間前だ。
しかし、石川はこの週も、毎日3時間前には姿を見せた。
スタートまでに練習場に必ず2度足を運び、調整を重ねていた。
しかもただ漫然と打つのではない。
「1打1打、ラウンド中と同じ集中力で。毎日毎日、よく続くなと思うくらい」と、加藤さん。
そんな日々の中で、確かな手応えを感じるようになったのは10月のキヤノンオープンのころからだった。
翌週の日本オープンでは単独2位。
さらに先週のブリヂストンオープンで12位タイ。
そのころには、加藤さんの目から見ても「いつ勝ってもおかしくない」といえるまでに仕上がっていた。
ギャラリーの声援にも堂々と応えられるようになっていた。
今回の優勝賞金3000万円を加え、賞金ランクは6位に浮上した。
目標だったツアー最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」の出場権も手に入れた。
今年の最優秀新人賞「島田トロフィ」の最有力候補にも名を連ねたが、「まだまだ上手くなりたい、まだまだ強くなりたい」と、どん欲だ。
17歳には酷ともいえる重圧もみごとにはねのけ、つかんだこの1勝も、石川にとっては通過点に過ぎない。
“伝説”は、いまようやく始まったばかりだ。