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男子が2年連続3度目の頂点へ

ジャパンゴルフツアーは先週のゴルフ日本シリーズJTカップをもって、今季の全25試合を終えたが若き代表の石川遼も言うように「これは僕らにとって、26試合目の大会だった」。
しかし、ただの“26試合目”ではなかった。
他の団体競技の名句を借りれば「一人はみんなのために、そしてみんなは一人のために」。

だからこそ、普段より1打1打にいっそう魂がこもる。
だからこそ、勝てば普段より何十倍も嬉しい。

ゴルフでだって、そういう戦い方が出来ること。それをつくづくと噛みしめたこの2日間。
夕焼け色の空の下、矢野東がただ呆然とつぶやいた。
「俺……、俺いまゴルフをやってて本当に良かったと思ってる」。
キャプテンの宮本勝昌も感極まった。
「俺なんか、鳥肌立っちゃった…。最後は家族になったような気持ち。いますっごく興奮してる。すごいよみんな、本当に感動したよ!」。

12日(金)から2日間にかけて行われた「Hitachi 3Tours Championship 2008(日立3ツアー選手権)」。シニアと女子と男子が今季最強ツアーの名をかけて争われた究極の対抗戦は、男子のJGTOが劇的な逆転勝利を収めた。

最終日にあたるこの日DAY2の前半9ホールの<3rdステージ>で、一度は諦めかけた。
2人が1個のボールを交互に打つオルタネート方式のダブルス戦で、片山晋呉&宮本の日大同期ペアは4番パー4で、2人たて続けにOBを打って「9」を叩いた。3オーバーで惨敗した。

続く谷原秀人&石川ペアも、気合いが空回りしたのか苦戦が続いて2敗を喫した。

前日の2位から、首位の女子にさらに4ポイント差をつけられて最下位に沈み、逆転勝利には後半の9ホールにあたる<Finalステージ>のシングルス戦で、ひとつの負けも許されないという状況に。

「まあ、男子の連覇は厳しいだろう」というのが大方の見方だった。
本人たちもそれは重々承知の上で、それでも全員が思いをひとつにした。

「後半の9ホールで全勝してみせる」。

そんなみんなの熱い気持ちが「奇跡を呼んだ」(宮本)。
第1組の矢野東が最終ホールのバーディで、女子の原江里菜と2アンダーで並んで1.5ポイントを加えた。
第2組の谷原秀人はやはり最終ホールで約3メートルのバーディパットを沈め、シニアの飯合肇と4アンダーの首位で並んで2.5ポイントを稼いだ。
3組目の片山晋呉は第2打のボールに泥。グリーン左に外したが、執念でしのいで3アンダーは勝ち点3を上乗せた。

そして、最後が石川だった。中嶋常幸と3アンダーで迎えた18番は、その時点で首位の女子チームに1ポイント差。

石川が残り109ヤードから、ピッチングウェッジで奥3メートルにつけたバーディチャンスを決めれば逆転という場面。キャディの加藤大幸さんを加え、メンバー全員でラインを読み切った。

「フックは絶対にない」「カップの左ふちを狙う?」「いや、そこまでは切れない」「ジャストタッチで、カップの中の左側?」「…それで、大丈夫だ」。

石川は「かなりレベルの高い会話が出来たことが嬉しくて。先輩たちの言われたとおりに構えて打てば、外れるはずがないと思って打った」という。

前日初日の9番、18番でも奇跡のバーディ。
「もう一度、こういうチャンスが巡ってくるとは思わなかった。チャンスをいただけたのだから、絶対に生かさなければと思って打った」。
やっぱりこの日も石川が締めた。

カップインの瞬間を見ないうちに石川はもう、グリーンサイドのチームメイトに向かって全力で走り出していた。
それはまるで、これまでの5人それぞれの優勝シーンでもなかったような喜びようだった。

夢中で肩をたたき合い、輪になってそこいらを飛び跳ねた。
その輪の中心で石川は「ツアーの選手とジャンプして喜びあえたのが一生の思い出」と、劇的な逆転連覇に、誰よりも高く乱舞した。

前日初日に同組で回ったダブルス戦に続き、またしても最終ホールで17歳にしてやられた女王・古閑美保は「完敗です。遼くんに、全部持ってかれました」と、悔しがった。

シニアの賞金王・飯合肇は、「遼くんのパットはほんとうに、他の何かが入れさせているみたいだね」と、脱帽した。

男子チームのJGTO会長・小泉直の口癖は「感謝・感激・感動」だ。
それを持ってこそ、他の誰かの心を揺り動かすことが出来るというのが持論だ。
そう言っていた当人が「今日のみんなのプレーには本当に感動した」と言って、グリーンサイドでひそかに涙ぐんだ。

主催者が決める今年のMVP賞は石川遼に。誰も異論があるはずもなかった。
上は57歳から下は17歳まで。年齢も性別もすべての垣根はいつの間にか消え去って、大接戦にみんなが燃えた。振り返ればすべての火付け役は17歳だった。石川が巻き起こした興奮と感動の渦の中で、JGTOの5人衆が最高の形でシーズンを締めくくった。

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