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日本ゴルフツアー選手権 Citibank Cup Shishido Hills 2012
宍戸の森に広がる感動、最終日は恒例の「キッズエスコート」
最終日の1番ティで行われる大会恒例の「キッズエスコート」は前日の2日・土曜日に、会場の宍戸ヒルズカントリークラブの東コースを舞台に、「スナッグゴルフ対抗戦JGTOカップ」で熱戦を繰り広げた小学生たちが、いままさにスタートしていくツアープレーヤーたちと、手をつないで1番ティまで行進するセレモニーだ。
今年は、全国から21校が集まった。初出場の小学校は、うち3校あった。そのひとつが宮城県の大崎市立鬼首(おにこうべ)小学校だった。目の前で起きることのすべてが初体験だった子供たちの感動は、最高潮に達した。
矢野東と手をつないだ2年生の大沼風翔くん。「生の矢野選手はかっこよかった」と、嬉しそうにはにかんだ。2年生の鎌田実里ちゃんは、上井邦浩と手をつないで「緊張はしなかったよ」と大ギャラリーの視線にも、堂々と歩いた。
韓国のS・J・パクと入場した6年生の髙橋里緒ちゃんは、「大事に使わせてもらおうと思います」と、記念撮影のあとにもらったマーカーを、大事そうに握りしめた。
ツアープレーヤーと手をつなぐ特権は、1校につき3人まで。ジャンケンに負けて望みはかなえられなかったが、5年生の中鉢雅音くんは大満足だ。チームのみんなとティグラウンドに体育座りで見たプロのスイング。「すごく力強くて、体の底から響くような音がした」と、その余韻に浸った。
鬼首(おにこうべ)小学校は、深い山間の小さな町にある。全校児童30人の、小さな小学校である。14人のスナッグゴルフ部員は電車を乗り継ぎ、7時間をかけ、はるばるここ茨城までやってきた。
大会主催の日本ゴルフツアー機構の寄贈を受けて、この春からスナッグゴルフを導入したばかりだった。初心者ばかりのチームがこの全国大会まで駒を進められたのは、県内で出場に名乗りを上げたのが今年はたまたま同校だけだったからだ。
このたび初めての出場は、すべてが感動の連続だった。コーチの川村宣丈・先生は、「始めて2ヶ月足らずでよくここまで頑張ってくれたと思います」。部内予選で選ばれた代表6人の健闘は目を見張るばかりで、チームスコアは計186ストロークにまとめて19位につけた。
当日は初夏の陽気に、初出場の小学校にはなおさら過酷な1日に「子供たちには9ホールを回りきることでさえ、至難の業でした」と、川村先生。「プロの方は、努力に努力を重ねてこれを毎日、毎週のように続けている。がんばり続けることの大切さを学んだ1日でもありました」と、振り返る。
その夜、チームのみんなで囲んだ夕食が、どれほど小さな胃袋に染みたことか。
そしてその後、みんなで耳を傾けた中嶋常幸の講演会。
師匠でもある亡き父・巌さんへの尽きせぬ感謝の気持ちを、しみじみと語った中嶋は、「一人だけでゴルフが出来ると思っちゃいけないよ。支えてくれる家族や、地域のみなさんがいてくれてこそ。それを忘れてはいけないよ」。
鬼首(おにこうべ)小学校6年生の髙橋諒くんは、講演会が終わってすぐに、父であり監督の髙橋勇さんに伝えた。
「今日は僕たちを、試合に連れてきてくれて、本当にありがとうございました」。
友達と電車に揺られて、こんなに遠くまで旅をしたのは初めてだった。夜はみんなで大部屋に布団を並べて眠った。本戦ではみんなと心をひとつにして戦った。一緒の組で回った他の小学校の子とも、お友達になった。「またいつか、どこかの試合で会おう」と、約束した。大会を通じて大きく世界が広がった。
それもすべては、支えてくれる人がいてくれてこそ。
中嶋の話でそれに気がついたという髙橋くんは、恩人に感謝の気持ちを伝えずにはいられなくなった。「すごく良い経験が出来た。スナッグゴルフを始めて本当に良かった」と、監督に興奮気味に語ったという。
最終学年を迎えた髙橋くんは、「中学校でも続けたい。出来れば本当のゴルフを始めたい」と、スナッグゴルフからゴルフへの移行を希望している。
「中学校にもゴルフ部を作って、望みを叶えてやれるといいのですが」。
お父さんは、ちょっぴり悩ましげに笑った。